震災直後から能登地域の復興支援の資金循環を担ってきた公益財団法人ほくりくみらい基金。設立間もない時期から地域のコミュニティ財団として助成事業を走らせる中、規程の整備まで十分に手が回らない状況がしばらく続いていました。

「難しそう、時間がかかって大変そう」。代表理事の永井三岐子さんは、リスクマネジメントという言葉を聞いた時の印象をそう表現します。

転機となったのは、法務の専門家が連携してNPO等を支える一般社団法人BLP-Networkによる伴走支援です。BLP-Networkは2023年度の休眠預金等活用制度における活動支援団体に選定され、「リスクマネジメントに基づく運営・支援体制の確立」事業を実施しています。

その第1クール(2024〜25年度)を、永井さんはじめ団体のメンバーと、伴走弁護士の2人の言葉で振り返ります。

弁護士による支援を経て、永井さんの考えは大きく変わりました。

「リスクを踏まえた上で事業設計することの大切さを理解しました。本当であれば、弁護士の皆さんにはずっといてほしいです」

 

 「難しそう、時間がかかって大変そう」——最初の正直な印象 

リスクマネジメントという言葉を聞いて、どんな印象を持つでしょうか。永井さんは率直にこう話します。

「資金分配事業にはリスクがたくさんあるという印象はありつつ、『何がリスクにつながるのか』がわからず、難しそうとか大変そうとか、そんな印象でした」(永井さん)

BLP-Networkの活動支援事業を知り、「これはぜひお願いしたい」と応募を決めました。リスクマネジメントがまだ具体的なイメージを伴わない状態での第一歩でした。

 

 リスクの「正体」をつかむ——洗い出しと言語化の作業 

実際の支援はキックオフの対面ワークショップから始まりました。「弁護士と一緒にリスクを洗い出し、影響度を整理する作業を通じて、結局のところリスクは全方位にあると分かりました。その中でも、「財団のミッションが達成されないこともリスクの一つとして分類されるのだと理解し、リスク管理と事業推進はトレードオフではなく、むしろしっかりリスク管理していくことが事業を推進するエンジンになることがわかりました」と永井さんは振り返ります。

そして見えてきたのは、自団体だけでなく分配先のリスクでもありました。

モヤモヤしていたものが言語化されることで、対策が取れるようになった。それが大きかったといいます。

 

 

 

 トラブルが教えてくれたこと「手前でどれだけ丁寧にやるか」 

支援期間中には実際のトラブルにも直面しました。

助成先団体との関係で、やむをえず内容証明郵便を使って連絡するという対応を弁護士の指導のもとで実践しました。

当初は慌てることもありましたが、結果として重要な教訓になったと振り返ります。発生した出来事への対処法より価値があると気づいたのは、「準備」でした。

「発生したリスクに対応することよりも、その手前の申請前の相談や審査の部分で丁寧なコミュニケーションに時間をかけた方がよっぽどいいなっていうのをすごく感じました」(永井さん)

近くで支えた塙創平弁護士も補います。「運悪く色々起きてしまったのですが、早めにマネジメントすることが大事だということを体感できたはずです」

 

 整備したものは規程・雛形・連絡体制 

支援を通じて形になったものは多岐にわたります。

フリーランス新法に対応した業務委託契約書の発注書の雛形、プライバシーポリシー、助成金返還通知書。さらに、職務権限規程、コンプライアンス規程、管理規程、事務局規程など、団体内の全規程に弁護士の目が入りました。

団体と弁護士のコミュニケーションは月2回の定例ミーティングと、チャットツールを組み合わせました。トラブル発生時にも即時に相談できる体制ができたことは、団体にとって何よりの安心になったそうです。

こうした制度や規程が整備されていくと、リスクとともに不安も減っていき、「過度にリスクを恐れる」ことも少なくなりました。

 

 被災地支援特有の葛藤 

大きな災害のあとには、地域のためにボランティアを送りこむと、それが実は受け入れ地域の負担につながることもあるそうです。

また、個人が炊き出しや物資支援に取り組む中で、活動支援金を求めて、個人の振り込み口座をSNS上で示すようなこともたくさんあったそうです。ただ、それが果たして本当に地域のために使われるかどうかも保証されない状況は、さらなる混乱を招きかねません。

財団側が助成を出す際には、地域のニーズと合致した活動であるか、また活動団体の実態 を見極めていくことが重要なのは言うまでもありません。

 

 他のNPO・財団に伝えたい「100点を目指さなくてよいこともわかった」     

永井さんは他の非営利団体にこう呼びかけます。

「ボランタリーで進める活動のなかには、ルールもそんなに決まっていないし、決断のフローが曖昧で、判断がつかないこともたくさんあると思うんですよね。そのような部分を言語化できると事業の効率性はすごく上がる。リスクを踏まえた上で事業設計することの大切さを理解しました。本当であれば、弁護士の皆さんにはずっといてほしいです」

さらに、100点を目指して疲弊しないための視点も語ります。

「被災地においては緊急支援もあって、その場その場で助成すべき場面も出てきます。とはいえ、助成先をそこまで精査せずにやってしまえば、私たちの方もそれなりのリスクは背負うことになるわけです。

100点って無理じゃないですか。取りこぼす率が1割くらいあってもいいんじゃないかという相場感みたいなのも、法律家のアドバイスがあって理解できてきました」(永井さん)

 

 弁護士の参加動機「業務の幅を広げたい」 

メインとなって伴走支援を続けた2人の弁護士に、取り組みを振り返ってもらいました。

塙弁護士は普段、非営利組織や中小企業の顧問法務、ハラスメント相談窓口の受託運営などを手がけています。参加の動機はこうです。

「業務以外で久々に、非営利組織に伴走したいという思いがあったからです」(塙弁護士)

今回の支援に最も近い通常業務は何かと問われると、「楽しい法務デューデリジェンス」という言葉が返ってきました。

規程整備は弁護士業務の知見がそのまま活きる一方、リスクの洗い出しは「感覚こそ活かせたものの、手探りする部分もあった」といいます。

畠山弁護士は労働法務を中心に企業法務を扱い、ロースクール時代からBLP-Networkに加入していました。ただ、これまで単独で非営利法人の案件を担当したことはなかったといいます。

「弁護士としての経験もまだまだ浅かったことから、1人で担当することには躊躇を覚えていました。2人で担当でき、また鬼澤秀昌さん(BLP-Network代表)や岸本英嗣さん(マネジャー)の弁護士にもご支援いただけるということで、思い切ってチャレンジしました。

今回は、普段の弁護士業務とは異なり、リスクマネジメントを行うということでしたが、弁護士の業務とリスクマネジメントは非常に密接に関連していると考え、業務の幅を広げたいという思いもありました」

 

 「顧問先が1社程度増える負担感」でより大きな経験値が得られる

稼働の実態について塙弁護士はこう話します。「2週間に1回の打合せの他、一時期は毎週ランチインタビューを入れるなど、顧問先が1社増える程度の負担は覚悟してほしいですね。ただ時間の調整は比較的しやすかったので、本業を圧迫するということはなく、むしろ自分自身も学ぶ点が多く、負担感はそこまで多くなかった」

参加を検討する弁護士には、塙弁護士がこう呼びかけます。

「弁護士は、ほっておくと現場からどんどん離れていってしまいがちです。ここで一歩踏み込むと、支援先の団体の皆さんと一緒に頭を抱えて、文字通り伴走する体験をすることができます。その現場感覚こそが、普段の日常の仕事に持ち帰るべき現場感覚だと思います」

業務の幅を広げたいという思いで参加した畠山弁護士も収穫はあったそうです。

「普段の弁護士業務では、クライアントからの質問に対して回答をしていれば基本的に足りますが、このリスクマネジメント事業では、問題点を一緒に検討していくという作業が必要になるため、より深いコミュニケーションの経験をさせていただくことができました」

 

 

 

ほくりくみらい基金がBLP-Networkの支援を受け、2025年1月から15カ月間にわたり実施した「リスクマネジメントに基づく運営・支援体制の確立」事業

①休眠預金事業を中心に能登地震の復興担い手の育成のために適切なサイズの助成を複数実施する

②活動団体が必要な非資金的伴走支援を提供する

③県域財団として能登の復興だけでなく金沢以南においても地域課題解決のための資金調達活動と助成プログラムの実施について検討する

④活動団体と県内外のボランティア、プロボノ人材のマッチング

⑤資金の取扱額も関与する団体数も増えるため、そのリスク対応を行う

 

(取材・記事/塚田賢慎)