本稿では、その第1クール(2024〜25年度)を振り返り、その経緯と成果を、全国フードバンク推進協議会代表理事の米山廣明さんと、実際に支援にあたった2人の弁護士の言葉から探ります。
ガバナンス・コンプライアンス体制が改善されたことで、「企業や行政からの協力依頼が増えていくことが期待できます」と米山さんは手応えを感じています。
リスクマネジメントに取り組むのは必然だった
全国フードバンク推進協議会は休眠預金等活用制度における資金分配団体として、助成事業に取り組んでいます。
フードバンク活動は、企業などから食品の寄付を受け、困窮する世帯へ食品を届ける取り組みです。行政、企業、市民ボランティアなど多様なステークホルダーが関わり、活動の根幹には「社会的信頼」が欠かせません。
団体にガバナンスやコンプライアンス上の問題が生じれば信頼が失われ、食品の寄付が減ります。それは最終的に、食品を必要とする人への提供量の低下につながってしまうのです。
「リスクマネジメントに基づく運営・支援体制の確立」事業の支援対象団体に応募した当初から、米山さんは、自分たちの団体でノウハウを実践・改善するにとどまらず、「リスクマネジメントの業界全体への波及」まで意識していました。
何を、どのように整えていったか
団体を支援したのは、鈴木真紀弁護士と荒谷淑恵弁護士の2人です。
弁護士による伴走型支援として、「リスクマネジメント支援」(毎月の面談を通じて、主に団体のリスクの洗い出しやその評価とその結果に基づく規定類の調整を含めたリスクへの対応)と「助成プログラム支援」(助成事業の公募の際の申請書類の整理など)を実施しました。
まず、支援を通じて洗い出されたリスクは、大きく2つに分類されました。多くの団体に共通する給付金事業において検討すべきコンプライアンスリスクと、フードバンク特有のリスクです。
特有のリスクとしては、食品衛生の管理、SNSでの不適切な発信による風評被害、助成先の適正な選定、組織内の情報共有や意思決定プロセスなどが具体化されました。
それらのリスクを「点数化」して評価し、取り組む優先順位を決めていったといいます。
「漠然と心配だったところが、具体的なリスクとして可視化され、客観的に捉え直せました」と米山さんは語ります。
加盟団体側との合意書を新たに作成
実際の取り組みとして特に大きかったのは、全国の加盟団体と交わす合意書を新たに作成したことです。
食品の取り扱いルール、広報のルール、政治的・宗教的中立性の確保、恣意的でない適正な分配といった項目を盛り込んだ合意書が用意され、2026年度から全団体と順次取り交わす予定です。弊会のネットワーク全体で一定の水準を満たしていると、企業にPRできるようになります」と米山さんは話します。
内部規定も整備され、さらに内部通報制度の運用における意思決定プロセスの基準を明確にし、誰がいつ何を判断するかを組織内で共有できる実務フローを整えました。
助成先の選定プロセスも見直し、事業開始後に会計処理が適切にできるかを確認するフォーマットを新たに作成しました。このフォーマットを公募時に提出いただき、審査員ともその注意事項を共有するようになりました。
1つの団体だけでなく業界全体に視野を広げた支援
1年以上にわたって駆け抜けた弁護士たちも、団体の思いを受け止めてきました。
「支援対象の全国フードバンク推進協議会だけが良くなればいいわけでなく、その先の加盟団体や助成団体にも展開できるよう、なるべく一般化して伝えることを意識しました」(荒谷弁護士)
初期の段階では、弁護士同士の内部会議で、試行錯誤しながら、リスクマネジメントの考え方をわかりやすく理解してもらえるように心を配りました。
「私たちが契約書を修正してしまう”だけ”であれば正直難しいものではありません。ただ、今回の支援においては、リスクを洗い出してランク付けし、保有するものと対応するものを整理し、時間軸を持って解決していくという考え方そのものを理解してもらうよう工夫しました」(鈴木弁護士)。
職員5人と丁寧に面談をして、各自が個別に抱えていた不安が組織内で共有されていく過程に手ごたえを感じたといいます。
初期のリスク洗い出しの時期こそ大変でしたが、走り出してしまえば、団体とのミーティングも弁護士同士のミーティングもそれぞれ月に1回程度で、そこまで大きな負担はなかったそうです。
弁護士側の思い「通常業務では味わえない体験ができる」
鈴木弁護士と荒谷弁護士は、それぞれ異なる動機から、今回の支援に関わっています。
普段の鈴木弁護士は企業法務をメインに取り組み、会社役員の仕事もしています。
「企業や団体のサステナビリティにおいて、リスクマネジメントは当然の前提になる考え方だと思ったので、自らの成長にもつながることからリスクマネジメント支援に関わりたいと思いました。なにより社会貢献できることも大きな動機です」(鈴木弁護士)。
荒谷弁護士も企業法務に取り組みますが、「通常の顧問業務では最終的な判断を相手に委ねることが多いため、もう少し踏み込んで携われる事業だと感じて参加しました」と語ります。
荒谷弁護士は、この事業を通じて「事業目的から逆算して優先順位を考える」視点を得たと話します。
「ミッションやビジョンを具体化し、5年後・10年後に向けていま何をすべきかを細分化していく。それが非常に難しく、大きな学びになりました」と振り返ります。
支援を受けたことで弁護士のイメージまで変わった
米山さんにとっては、弁護士に対するイメージが変わる経験でした。
「これまで、何か起きた時にお願いする相手が弁護士というイメージでした。優しく伴走してもらったことで、そのイメージが新しいものに変わりました」。
取り組みを通じた最大の変化は、外部への説明に自信が持てるようになったことだといいます。
「ガバナンス・コンプライアンス体制を改善したことで、企業や行政に対しても自信を持って活動説明や協力依頼ができるようになりました」と米山さんは話します。
フードバンクの活動に関心があるのに、まだまだ不安があるから繋がっていない企業が潜在的に多くあると見ています。「適切にリスクマネジメントに取り組んでいることをしっかりPRすることが今後重要です」と言います。
非営利団体は規模を問わず取り組む意義がある
伴走支援をうけた米山さんは他のNPOや非営利団体にこう呼びかけます。
「非営利活動は社会的信頼の上に成り立っています。規模に関わらず取り組む意義があります。一度に全てを整えるのは難しいです。優先順位をつけてできるところから始めればいいと思います」
さらにこう続けます。
「予防的な措置に割く労力と、実際にトラブルが起きた際の対応労力を比較すれば、あらかじめ取り組んでおく方がメリットは大きいです。取り組むことで得られる信頼性の向上と、問題が起きた時に失われる社会的信頼を冷静に比べてほしいです」
支援期間が終わっても、団体内部の取り組みはこれからも続きます。米山さんは「リスクマネジメントは継続が前提です」と語ります。
団体の内部にまでリスクマネジメントの考え方は浸透しました。
2026年4月以降も3カ月に1度の法人内会議でリスクの優先順位を確認し、残るリスクにも一つずつ取り組みながらPDCAサイクルを定着させる方針です。
全国フードバンク推進協議会がBLP-Networkの支援を受け、2025年1月から15カ月間にわたり実施した「リスクマネジメントに基づく運営・支援体制の確立」事業
①休眠預金活用事業における資金分配団体として、実行団体に対して助成を行う体制を強化する
②全国各地の加盟フードバンク団体への研修会、コンサルティング等の運営支援により、加盟フードバンク団体への運営基盤強化支援の体制を強化する
③休眠預金活用事業における活動支援団体として、支援対象団体への基盤強化支援を行うとともに、資金分配団体の候補団体の発掘及び育成を行うことができる体制を構築する
(取材・記事/塚田賢慎)


