この記事では、よく規程の整備が求められる事項について、リスクマネジメントの観点から分析し、具体的な対応策を検討します。なお、この記事では、NPO法人(特定非営利活動法人)に関する記載を中心としつつ、重要な内容については一般社団法人等の他の法人形態についても時折言及いたします。

今回のテーマは、「監事の設置」及び「監査」です。

リスクを検討するときには単に「監事を設置する/しない」といった形で抽象的に考えるのではなく、「監事が機能しないまま不祥事が起きたら具体的に団体にどのような影響があるか」といった点までセットで考えることが重要です。本記事では、団体のモニタリング機関である監事の設置及び監査の観点から、団体がモニタリング不全に陥ってしまうリスクについてどのように防止策を講じるべきか、検討していきます。

 

Ⅰ はじめに:監事は「運営の補助役」ではなく「独立したチェック機関」です

1.構成ルール・資格要件

NPO法人は、単純化すれば、社員(メンバー)及びその総会と、役員(業務執行や運営を担う理事と監査を担う監事)から構成される組織です。監事についても、こちらの記事でご説明した役員の構成ルールや資格要件が基本的に妥当します。

なお、NPO法人では監事を設置することが義務(NPO法第15条)となっていますが、一般社団法人では理事会を置く場合、会計監査人を置く場合、又は公益認定を受ける場合(※)を除き、監事を設置しない形も可能となっています。

(※一般社団法人が公益法人となるためには、公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律(公益認定法)第5条第16号に基づき、当該法人やその子法人の理事・職員を過去10年間に務めたことのない外部監事の設置が必要となります。)

また、監事は、後述するような強力な権限を持ち、団体運営をモニタリング・チェックする機能を果たすべき機関であることから、高度の独立性が要請されており、監事が理事又は職員を兼ねることはできないという構成ルール・資格要件になっております(NPO法第19条)。この点は、一般社団法人でも同様のルールとなっています(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(一般法人法)第65条第2項)。

 

2.監事の権限及び義務

NPO法人の監事は、「理事会を手伝う人」ではありません。むしろ、団体運営をモニタリングし、業務監査・会計監査を実効的に行うべき立場であり、牽制役です。この役割が弱いと、団体は①不正の早期発見ができない、②説明責任を果たせない、③助成・寄付・受託といった外部資金源を失う、といった事態に陥ってしまいます。

監事の職務については、NPO法第18条に以下のとおり規定されています。

(監事の職務)

第十八条 監事は、次に掲げる職務を行う。

一 理事の業務執行の状況を監査すること。

二 特定非営利活動法人の財産の状況を監査すること。

三 前二号の規定による監査の結果、特定非営利活動法人の業務又は財産に関し不正の行為又は法令若しくは定款に違反する重大な事実があることを発見した場合には、これを社員総会又は所轄庁に報告すること。

四 前号の報告をするために必要がある場合には、社員総会を招集すること。

五 理事の業務執行の状況又は特定非営利活動法人の財産の状況について、理事に意見を述べること。

ポイントは、例えば上記で下線を付した第3号の場合について、監事は「発見したら報告しても良い」のではなく、「報告すること」が「職務」である(これを怠った場合には監事自身が一定の責任を追及され得る)という点です。更に付言すれば、通常有すべき注意をもって監査していれば不正行為等を発見することができたはずであるにもかかわらず、通常有すべき注意をもって監査できていなかった場合にも、監事は責任を追及され得ると考えられます。

この点、一般社団法人の監事については、以下のとおり、より大きな権限と義務が規定されています。

  • 監事は理事・使用人に報告を求め又は調査することが可能(一般法人法第99条第2項)
  • 理事会に出席し必要があれば意見を述べる義務(一般法人法第101条第1項)
  • 違法行為のおそれ等があれば差止請求も可能(一般法人法第103条)

 

3.監査の拠り所となる各種規程について

監査の拠り所となるNPO法人の各種規程(会計規程、稟議規程、旅費規程、利益相反規程、文書管理規程など)については、こちらの記事でも説明をしたところです。監事による監査を実効的なものとするためには、規程の内容はもちろん、制定・改定のプロセスまでモニタリング対象とすることが重要です。

 

Ⅱ リスクの評価

1.リスクの類型と具体例

監事が機能しない(=モニタリング不全)ことで、例えば以下のような事態を招きかねないというリスクが想定されます。

  • ミスや不正(二重払い・資金流用・架空発注・・・)を早期に止められずに損失が拡大する
  • 意思決定・承認に関するルールや内部統制が崩れてしまい責任の所在が不明確となってしまう
  • 所轄庁への報告・説明が不十分となってしまう
  • 助成金・業務委託・寄付の審査で不利になり資金調達が難しくなる
  • SNS・報道等で信用が毀損し人材確保が困難になる

 

2.発生可能性(発生確率)

団体の規模や事業内容などにより異なる部分はあるものの、例えば、以下の事情があるような場合には、上記リスクの発生可能性が高まっている状況にあると考えられます。

  • 監事が名目化してしまい監事が理事会資料・会計資料を定期的に見ていない
  • 稟議・支払承認・契約締結の手続が存在せず又は守られていない
  • 監事が疑問点を質問・指摘してよい空気が確保されていない
  • 規程は整備されているが運用・周知・見直しが適切になされていない
  • 必要な会議が開かれないか開かれても議事録が作成・保管されていない

 

3.影響度

上記リスクが顕在化した場合の影響としては、以下のようなものが考えられます。特に、一回的な金銭的損害だけでなく、外部信用が落ちてしまいNPO法人としての存在意義への疑義につながってしまい得るという点は重要と考えられます。

  • 財務的影響:助成金不採択、寄付減少、提携解消、損害賠償、専門家費用(弁護士・司法書士・社労士等)、不正経理の穴埋め・・・etc.
  • 社会的影響:SNSでの炎上、報道、ステークホルダー(支援者・受益者・自治体・提携先企業等)の信頼喪失・・・etc.
  • 人的影響:職員・ボランティアの離脱、採用難、内部対立・・・etc.
  • 行政対応:所轄庁への報告・是正、追加資料提出、手続のやり直し・・・etc.

 

4.対応策

モニタリングの精度・実効性は、①監事の独立性×②監事が発言(質問・指摘)しやすい場や雰囲気×③各種情報への監事によるアクセスの容易性により左右されます。そこで、対応策については以下のとおり考えることができます。

  • ①監事の独立性(構成ルールや資格要件の違反のリスク)に対しては、

・監事の法定の職務(監査・報告・招集・意見陳述)やモニタリング不全時のリスクについて監事自身はもちろん他の社員もしっかり認識すること(NPO法第18条)

この認識を周知するための研修も有用であると考えられます。

・監事が理事や職員を兼任していないこと(NPO法第19条)

・監事が適法に選任され欠格事由に該当しないこと(NPO法第20条)

・親族等の比率制限(こちらの記事もご参照ください)に抵触していないこと(NPO法第21条)

・・・といった法定の最低ラインを確保することがまずは出発点となります。

  • その他、理事に関するものと同様に、役員に就任しようとする者から差し入れられる誓約書(NPO法第10条第1項第2号ロ)の管理を徹底するといった対応も考えられます。

また、②発言しやすい場や雰囲気③各種情報へのアクセスの容易性(監査プロセスが機能しないリスクを防ぐ)については

  • 例えば、理事会議事録、稟議書、契約書、支払証憑、会計帳簿といった文書を適時に漏れなく作成するといった対応も考えられます。
    • 特に、契約などの対外関係や責任を生じさせる事象については、契約書などの形で記録することにより、利益相反や不当発注などを監事が検出することが可能となります。
    • また、会計帳簿などの数字を取り扱う文書や、時間の経過とともに連続的に記録が累積していく文書については、更新頻度を月次など可能な限り短期間とすることにより、監事における「年度末に一気見」などの事態を防ぐことができますし、適時にミスや不正を発見し指摘しやすくなります。
    • これらの各書類について、作成・保管の担当者を予め定めておくことも重要です。
  • その他、監査の拠り所となる各種規程や各種文書の作成要領などを予め策定しておく、監査報告の様式も予め定めておく、といった対応も有用です。

 

Ⅲ リスクへの対応と優先順位

リスクの大きさの考え方や、対応の優先順位の付け方などについては、こちらの記事でご説明したとおりです。

 

Ⅳ まとめ

NPO法人のガバナンスは、「運営」だけでなく適正な「監査」により初めて機能します。

優先順位付けや規程整備に悩む場合は、スポットで専門家(弁護士・司法書士・社労士など)を活用するのも現実的な選択肢となります。