この記事では、よく規程の整備が求められる事項について、具体的な対応策をリスクマネジメントの観点から分析し、具体的な対応策を検討します。今回のテーマは「経理体制」についてです。

Ⅰ はじめに

非営利活動団体における「信頼」の重み

非営利活動団体は、営利企業のように対価を得て財やサービスを提供することを主目的とするのではなく、「社会課題を解決することへの期待」によって支えられています。寄付や助成金は、活動の成果そのものだけでなく、団体の姿勢や価値観、透明性に対する信頼に基づいて拠出されています。

そのため、非営利活動団体では、期待を裏切ったと受け取られた場合の社会的リアクションが大きくなりやすいという特徴があります。金額や規模の大小にかかわらず、「信頼を損なった」と評価されれば、団体の活動継続そのものが難しくなることもあります。

 

経理体制が信頼と直結する理由

経理上の問題は、単なる事務処理の不備としてではなく、団体の姿勢や信頼性そのものを問う材料として受け止められやすいものです。不正や不祥事がなかったとしても、経緯が説明できない、判断の理由が共有されていない、状況が見えないといった状態は、それ自体が不信につながります。

経理体制とは、正確な数字を出すためだけの仕組みではありません。団体として「何が起きているのか」「なぜその判断に至ったのか」を外部に説明できる状態を支える基盤であり、信頼を可視化するための重要な要素です。

 

本記事の視点

本記事では、管理や統制を強めること自体を目的としません。現実の業務量や人員体制、現場の制約から出発して、どのようにリスクを捉え、どのように下げていくのかを整理することを目的とします。

現場を止めず、それでも信頼を守る。そのための経理体制を、リスクマネジメントの観点から考えていきます。

 

Ⅱ 経理体制に潜むリスクの具体的内容

基本的な二つのリスク

経理体制が十分でない場合、まず想定されるのは二つのリスクです。

一つは、うっかり間違えるリスクです。会計処理の誤り、助成金や委託事業特有のルールの誤認、忙しさによる後回しや思い込みによる処理など、悪意がなくても起こり得るミスは少なくありません。

もう一つは、不適切な処理が行われるリスクです。意図的な不正行為だけでなく、善意や慣れからルールが徐々に逸脱していくケース、チェックが十分に機能しないことで不適切な処理が見過ごされるケースも含まれます。

 

非営利活動団体において特に問題となるリスク

ここで挙げるリスクは一般企業にも存在しますが、非営利活動団体では、組織規模が小さく人材や資源に制約があることから、特に顕在化しやすい傾向があります。専任の経理担当者や十分な管理体制を整えることが難しい中で、限られた人数が複数の役割を担うことになり、経理に関する知識や判断、経緯の理解が特定の個人に集中しやすくなります。

  • 属人化・ブラックボックス化のリスク

特定の担当者に、知識、判断、過去の経緯の理解が集中すると、他の職員や理事が現在の状況や判断理由、数値の意味を説明できない状態に陥りがちです。経理処理そのものに問題がなかったとしても、「説明できないこと」自体が大きなリスクになります。

  • 現場と経理業務を担う立場との分断リスク

また、現場と経理業務を担う立場との間に認識のずれが生じることもあります。現場では、経理や管理の手続きが、活動そのものに直接つながらない余計な負荷や追加作業として受け止められることがあります。一方、経理業務を担う立場では、現場がルールや手続きを十分に理解していないと感じることもあります。

このような認識のずれが続くと、相互理解が進まず、実際のリスクが見えにくくなってしまいます。

 

Ⅲ リスクの評価

発生可能性

これらのリスクは、人員や時間に余裕がない団体ほど発生しやすくなります。また、現場の実態を踏まえない体制設計が行われた場合や、「信頼しているから大丈夫」という判断が積み重なった場合にも、リスクは見えにくい形で蓄積されていきます。

 

影響度

影響は、経理上の問題にとどまりません。支援者や助成元、社会からの信頼が低下すれば、団体の存在意義そのものが問われることになります。非営利活動団体にとって、信頼の低下は活動の縮小や停止につながりかねず、その影響度は非常に大きいものです。

 

リスクの高低の判断

リスクの有無は、間違いや不正が起きたかどうかだけで判断すべきではありません。「説明できない状態」になっていないか、問題が起きたときに組織として説明し、修正できる構造になっているかという視点で判断することが重要です。

 

Ⅳ リスクへの対応(考え方編)

現実から出発しない統制は機能しない

経理業務を担う立場では、「統制を強めればリスクは下がる」と考えがちです。しかし、現場の業務量やスピード感、責任の重さを無視したルールやチェックは、実際には守られず、形だけの対応になりやすい傾向があります。

リスク管理は、制度や規則を先に置くのではなく、現実から出発しなければ機能しません。

 

リスクは「人」ではなく「構造」の問題

リスクが顕在化した際、特定の担当者の資質や姿勢に原因を求めてしまうことがあります。しかし重要なのは、その人に過剰な役割や判断を集中させていなかったかという構造の問題です。

現場をよく見ながら、誰か一人がすべてを抱え込まなくても済む形になっているかを点検する必要があります。

 

信頼とリスク管理を両立させる視点

ここでいう信頼とは、現場で誠実に活動している人たちへの信頼です。リスク管理は、その信頼を否定するものではありません。

現場を信頼しているからこそ、誰か一人に責任や判断が集中しない仕組みを整えることが重要です。信頼している人が、後から疑われたり、説明できずに責任を負わされたりしない状態をつくることが、リスク管理の本来の役割です。

 

Ⅴ リスクへの対応(体制・仕組み編)

経理体制を「現実に回る設計」として考える

経理体制は、理想像からではなく、現実に回る設計として考える必要があります。ここで重要なのは、判断や責任に区切りを設けることです。

ここでいう区切りとは、業務を細かく分断することではなく、判断や責任が一人に集中しないよう、役割や判断ポイントに意識的な境界を設けることを指します。例えば、支出の起案は現場、支払実行は経理、一定額以上の承認は責任者、といったように、工程ごとに担当と責任を分けておくことが「区切り」です。

 

判断ポイントを明確にする

判断ポイントとは、現場や担当者が一人で判断してよい範囲と、相談や確認が必要な場面とを切り替えるための基準です。

例えば、
・一定金額を超える支出の場合
・当初の予算に計上されていない支出の場合
・例外的な処理が必要になった場合

・取引先や支払先が「個人」になっている場合(立替払い/謝金等)

などについて、「ここから先は一人で判断しない」とあらかじめ決めておくことが考えられます。

判断ポイントを明確にしておくことで、担当者が過度な責任を抱え込まずに済み、結果としてリスクを下げることにつながります。そのとき、権限や役割の分担表を作り、見える化することも有効な方策のひとつです。

 

現場の負荷を増やさずにリスクを下げる工夫

判断ポイントを限定し、形だけのダブルチェックを避けます。書類作成そのものを目的化せず、後から説明できる状態をつくることに主眼を置いた運用が求められます。

 

経理と現場の接点をつくる

経理を、現場にとって距離のあるものや、余計な負担を増やすものとして捉えさせないようにし、最低限の共通理解を組織内につくることが、結果的にリスクを下げることにつながります。

 

Ⅵ 信頼獲得のための経理体制

― 外部への説明可能性という視点 ―

非営利活動団体にとって、信頼を維持するためには、内部で把握しているだけでは不十分です。外部から見て理解でき、説明できる状態を保つことが求められます。

そのための実務的な手法として、属人化やブラックボックス化を防ぎ、経理情報を他者と共有可能な形にすることが重要です。

具体的には、
「区分経理」
「会計処理の原則」
「経理責任者と金銭の出納・保管責任者の峻別」
「勘定科目および帳簿」
「金銭の出納・保管」
「収支予算」
「決算」

といった項目が挙げられます。これらは、休眠預金事業を実施するにあたり、助成金を受ける団体が経理規程に盛り込む必要がある事項であり、「規程類必須項目確認書」において求められている内容です。

これらの項目は、単に形式を整えるためのものではなく、外部に対して説明可能な状態を保つための実務的な道具として位置づけることができます。

したがって、規程に盛り込むだけで終わらせず、実態に沿って運用できているかを定期的に点検することが重要です。

 

Ⅶ 規程整備に関する留意点

規程は、守るためだけのものではなく、説明するためのものです。実態と乖離した規程は形骸化し、かえって信頼を損なう場合もあります。

団体の規模や人員、活動内容に応じた、現実に運用可能な形で整備し、定期的に見直していく姿勢が重要です。

 

Ⅷ まとめ

非営利活動団体のリスクマネジメントは、統制を強めることから始まるものではありません。現実をよく見ることから始まります。

何か問題が発生したとき、その外部への影響が大きい場合など、強い力で統制が求められることがあります。しかし、そのような局面で形式的にルールやチェックを増やしても、実際のリスクが下がるとは限りません。

むしろ重要なのは、現場で何が起きていたのか、どのような判断や負担が集中していたのかを丁寧に見つめ直すことです。現実を直視せずに統制だけを強めれば、現場は萎縮し、問題は見えにくくなってしまいます。

問題が起きたときこそ、現場の実態に即した対応を行い、無理なく回る仕組みに立ち返ることが、信頼回復と再発防止につながります。

(中小企業診断士 西川雅明)