この記事では、よく規程の整備が求められる事項について、リスクマネジメントの観点から分析し、具体的な対応策を検討します。なお、この記事では、NPO法人(特定非営利活動法人)に関する記載を中心としつつ、重要な内容については一般社団法人についても時折言及いたします。
今回のテーマは、「理事の構成」、「理事会の運営」及び「理事・理事会の職務・権限」です。
リスクを検討するときには単に「ガバナンスのリスク」や「●●をしてはいけない」といった形で抽象的に考えるのではなく、「ガバナンス不全が起きたら具体的に団体にどのような影響があるか」「ガバナンス不全をしない/防ぐためには具体的にどのような備えをしておくべきか」といった点までセットで考えることが重要です。本記事では、団体の中心的な運営機関である理事・理事会の設置・ガバナンスの観点から、団体がガバナンス不全・機能不全に陥ってしまうリスクをどのように見積もり、どのように防止策を講じるべきか、どのような費用がかかるのか、といった事項について検討していきます。
Ⅰ はじめに:「理事」は名誉職ではなくリスクの中心人物です
1.構成ルール
NPO法人は、単純化すれば、社員(メンバー)及びその総会と、役員(業務執行や運営を担う理事と監査を担う監事)から構成される組織です。役員とりわけ理事の構成ルールについては、法律上、以下のように定められています。
- 理事3名以上、及び監事1名以上が必須(NPO法第15条)。
- 欠格事由(NPO法第20条:例えば破産者、一定の法令違反歴、暴力団関係、成年被後見人など。)に該当すると役員にはなれない。
- 親族制限(NPO法第21条)として、各役員について、
- その配偶者又は3親等以内の親族が1人を超えて(すなわち2人以上)含まれてはならず、かつ、
- 当該役員本人+配偶者+3親等以内の親族の合計人数が役員の総数の3分の1を超えてはならない。
- 報酬を受ける役員は、役員の総数の3分の1以下(NPO法第2条第2項第1号ロ)でなければならない。
- ここでいう「報酬」の意味については、こちらもご参照ください。
なお、一般社団法人については、上記のような親族制限や報酬役員制限に関するルールは基本的にありません。
また、休眠預金事業においては、法律上の定めに加え、理事の構成に関し「他の同一の団体の理事である者その他これに準ずる相互に密接な関係にある理事の合計数が、理事の総数の3分の1を超えないこと」も要件として求められています。
2.理事の権限と合議体(理事会等)の位置づけ
NPO法人の理事には、以下のとおり役割が大きく2つあります。
- 団体を運営する役割(意思決定・業務執行)
- 団体をモニタリングする役割(相互チェック・不正防止・透明性確保)
これらを各NPO法人において実装させるため、法律上、NPO法人の理事の対外・対内の基本ルールは次のとおり定められています。
- 対外(外部との契約等):各理事は、法人の業務について法人を代表します(NPO法第16条)。
- ただし、定款でその代表権を制限でき、例えば、代表理事や理事長のみが代表権を有するという趣旨で「理事長は、この法人を代表する。」といった定めを置くことが可能です。さらに、当該代表理事や理事長以外の理事については法人登記に載せないといった対応も可能です。
- 対内(意思決定):法人の業務は、定款に特別の定めがないときは理事の過半数で決定します(NPO法第17条)。実務上は、NPO法人との関係では、この「理事の過半数をもって決する」場を便宜上「理事会」と呼ぶことが多いかと思われます。
- 一般社団法人との関係では、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(一般法人法)において「理事会」に関する規定が設けられており、理事会が業務執行の決定・監督・代表理事の選解任を担います(一般法人法第90条第2項)。
また、重要なルールとして、利益相反行為については該当の理事が代表権を有しないというルール(NPO法第17条の4)がありますが、一般社団法人との比較を含め詳細はこちらをご参照ください。
なお、理事会を設置している場合に関して、休眠預金事業においては、その運営に関する規程として、以下の内容を含んでいることが求められています(一般的には定款で定められていることも多いです)。
(1)開催時期・頻度
(2)招集権者
(3)招集理由
(4)招集手続
(5)決議事項
(6)決議の要件(過半数か3分の2か等)
(7)議事録の作成
(8)特別の利害関係を有する場合の決議からの除外(「理事会の決議に当たっては、当該決議について特別の利害関係を有する理事を除いた上で行う」という内容を含んでいること )
このように、理事の権限は多岐にわたります。その大多数を代表理事などの一部の理事が事実上担っている状態は、様々なリスクに共通の発生原因となり得るため、例えば、理事ごとに「団体を運営する役割」「モニタリングする役割」「目の前にある問題や機会について新しい意味づけをする活動」といった主担当を割り当てることについて団体内で検討し、少なくとも理事の間で共有しておくことも有用だと考えられます。
3.「職務権限規程」の作り方
職務権限規程や決裁規程は、法律上必須のものではありませんが、ガバナンスの実効性や安定性を確保するうえで非常に重要なものであることから、休眠預金事業においては、特に理事の職務権限規程の整備が求められています。これを作成するにあたっては、理事者間で共有した理事の職務内容についての分担が反映されていることや、団体の実態に即したものになっていることが重要です。
そこで、あるべき流れとしては、例えば、
①実務を知る事務局(事務局長・経理)が叩き台を作成
②運営+モニタリングを担う理事会において代表理事が他の理事と議論
③社員総会の承認を経て正式決定
④周知・運用
⑤定期的な見直し
・・・というプロセスを回しながら策定されることが望ましいでしょう。裏を返せば、例えば、
[1]代表理事・理事長と事務局の一部だけで策定し理事会は追認するのみ
[2]世に出回っている一般的な雛形のようなものを流用するのみ
[3]策定したのみで周知徹底がなされない
・・・といった状態は、リスクマネジメントの観点からは望ましくありません。特に[1]は、「業務執行・運営」と「モニタリング」が同じ人に集中してしまうという意味で、非常にリスクの高い状態であると考えられます。
Ⅱ リスクの評価
1.リスクの類型と具体例
NPO法人においては、役員とりわけ理事によるガバナンスが機能しないことで、例えば以下のような事態を招きかねないというリスクが想定されます。
- 構成ルール違反リスク
上述したような役員の構成ルールは、最低限、守られなければなりません。形式的な違反であっても、それによる信用毀損のリスクは小さくありません。
- 代表権リスク
上述したとおり、NPO法人の対外的関係における原則は、「各理事が代表」です。そのため、定款で代表権制限をしていない場合に、理事が単独で(勝手に)契約を締結してしまい、当該契約に団体が拘束されるというリスクが生じ得ます(NPO法第16条、一般法人法第77条)。
- 意思決定プロセス不全リスク
何をどの合議体において決定するのか、といった点が曖昧になってしまうというリスクが考えられます。この点、NPO法は、議決要件など一定のルールを定めています(第14条の5や第17条など)。しかし、理事会の招集通知などについても細かく法定されている一般法人法ほど、細かな規定は置かれていません。
そこで、後述するとおり、こういった点についても内部規程等を整備するといった対応が考えられます。
- 利益相反・私物化リスク
上述したとおり、NPO法人では利益相反事項について当該理事が代表権を失い、所轄庁が特別代理人を選任することとなります(NPO法第17条の4)。一般社団法人とは異なり、承認を受けるだけで解決するものではありません。例えば、理事の個人所有不動産を法人が借りる、理事の親族企業へ発注する、といった場面において問題となります。
- 「名義だけ理事」リスク
近時、一般社団法人等に実態のない理事を就任させ、社会保険に加入させることで国民健康保険よりも保険料負担を軽くしようといったスキーム(いわゆる“国保逃れ”)が報道されています。法人登記事項において虚偽の内容となる部分があることに鑑みると、公正証書原本不実記載等の罪にも問われ得る、重大な問題のあるスキームとなります。
2.対応策(規程・運用)
- 構成ルール違反リスクに対しては、例えば、役員に就任しようとする者から差し入れられる誓約書(NPO法第10条第1項第2号ロ)の管理を徹底するといった対応が考えられます。
- 代表権リスクに対しては、例えば、定款で代表権を制限することとし「代表理事のみ」が行動できることについて規定したり、「職務権限規程」を定めて「契約締結権限」と「金額基準」を明確化したり、といった対応が考えられます。
- 意思決定プロセス不全リスクに対しては、例えば、「理事会運営規程」を策定し招集・議決・議事録・持回り決議などについて明文化する(一般法人法の規定に倣った規律を参考とする)といった対応が考えられます。議事録の作成要領などを予め策定しておくといった対応も有用であると考えられます。少なくとも、仮に万が一、補助金申請・不動産契約・高額支出といった重要事項について理事らのLINEで「了解」するだけといった運用がなされていたり、議事録が残されていなかったり、といった状況があれば、早急に改善の必要があると考えられます(所轄庁対応や登記が必要となった場合の準備としても好ましくありません)。
- 利益相反・私物化リスクに対しては、例えば、「利益相反管理規程」を策定し、事前報告を徹底させるといった対応が考えられます。規程の内容としては、利害関係理事の議決参加禁止や、第三者見積り・相見積りを必要とする等、あるいは所轄庁への特別代理人選任申立ての手順なども定めておくことが考えられます。
- 「名義だけ理事」リスクとの関係では、理事就任時に「役割定義」「期待行動」「年◯回以上の理事会出席」「利益相反の申告義務」といった事項を確実に合意して、誓約書に記しておく等の対応が考えらえられます。
3.発生可能性(発生確率)
団体の規模や事業内容などにより異なる部分はあるものの、例えば、以下の事情があるような場合には、上記リスクの発生可能性が高まっている状況にあると考えられます。
- 対外契約が増えてきているのにもかかわらず、代表権や署名権限の所在についての整理がなされていない。
- 代表理事や理事長に意思決定が集中し、理事会が追認機関化している。
- 職務権限規程や理事会運営ルールがないか、あっても適切に周知・運用されていない。
- 必要な会議が開かれないか、開かれても議事録が作成・保管されていない。
- 様々な決定事項について代表理事や理事長から説明がなされない。
- 役員が“善意のボランティア”にとどまってしまっており、法的義務や利益相反などへの感度が醸成されていない(教育・オンボーディング不足)。
- 定款と実態との間の齟齬が散見される。
4.影響度
上記リスクが顕在化した場合の影響としては、以下のようなものが考えられます。
- 財務的影響:助成金不採択、寄付減少、提携解消、損害賠償、専門家費用(弁護士・司法書士・社労士等)、不正経理の穴埋め・・・etc.
- 社会的影響:SNSでの炎上、報道、ステークホルダー(支援者・受益者・自治体・提携先企業等)の信頼喪失・・・etc.
- 人的影響:職員・ボランティアの離脱、採用難、内部対立・・・etc.
- 行政対応:所轄庁への報告・是正、追加資料提出、手続のやり直し・・・etc.
Ⅲ リスクへの対応と優先順位
リスクの大きさは、一般に、「発生確率×発生したときの影響の大きさ」で算定されます。
そこで、上述の記載を参考に、リスクの発生確率については「高・中・低」、発生したときの影響の大きさ(影響度)については可能であれば「金額」や「信用毀損の大きさ」などの形で、それぞれ把握することが有用と考えられます。それにより、限られた人的・資金的リソースの中で優先順位を付けて対応することが可能となります。
リスクについて対応の優先順位をつけたうえで、例えば団体としての規模が小さく外部資金(助成金・寄付・融資)への依存度も低い間は、ガバナンス体制の完全構築を目指すというよりも、最低限の体制(定款や役員構成など)の構築を優先するという判断も合理的かと思われます。
いずれにせよ、リスクへの対応にあたっては以下のプロセスを経ることが考えられます。
①現状の把握:役員構成、代表権の制限の有無、社員総会・理事の決定事項の委任範囲、会議運営(通知、議決、書面決議・電磁的方法)などの点(NPO法第11条1項7号及び第14条の4〜第14条の9も参照。)を定款から確認し、対外契約の署名者や法人登記情報も確認する。
②各種規程やマニュアルの整備(進め方は上述したとおりです)
Ⅳ まとめ
NPO法人のガバナンスは、理事が「運営する」だけでなく「モニタリングを回す」ことで初めて機能します。ガバナンス整備は「コスト」ですが、リスクが顕在化した場合の損害(資金・信用・人材等)を考えると、かけるべき必須のコストであると考えられます。
優先順位付けや規程整備に悩む場合は、スポットで専門家(弁護士・司法書士・社労士など)を活用するのも現実的な選択肢となります。
