休眠預金事業の助成金を申請する際には、リスクマネジメントに関する規程の整備や提出が求められます。本ポータルサイトでは、その際に対象となる各リスクの具体的な内容 や対応策について、個別のリスク毎に説明をさせていただきました。具体的な対応に関しては、必ずしも規程の整備だけに限定されない、リスクに応じた様々な方法が考えられることが、各記事において例示されています。
ただ、規程を作成すること自体の価値を否定している訳ではありません。規程とは、各団体におけるルールのことです。 公益社団法人・公益財団法人になるためには規程が求められますが、内閣府公益法人行政担当室「内部規程の必要性について 」では、「規程」を「組織の意思決定プロセス、業務執行、会計処理などを明確化し、組織運営を円滑に行うためのルールを定めるもの」と説明しています。ここでは、改めて、様々なリスク対応の手段がある中で、何故規程が必要になってくるのか、さらに、それを実効化するためにはどのようなステップを踏む必要があるのか、について解説させていただきます。
Ⅰ リスクマネジメントとコンプライアンス
NPOが事業を行うにあたっては、事故の発生や法的トラブルだけでなく、多種多様なリスクの発生可能性と影響を評価し、対策を講じていくことになります。NPOは限られたスタッフの時間(リソース)と資金で運営されているため、「全てが大事」という判断では立ち行かなくなります。そのため、どのリスクに優先的に対応し、どの程度のリソースを割くかという「経営判断」そのものがリスクマネジメントの本質と言えます。
リスクマネジメントとセットで使われる言葉として「コンプライアンス」というものがあります。コンプライアンスは、法令遵守はもちろん、規程によって定められた行為規範や企業倫理を含む組織の内部方針、契約上の義務等に対する適切な対応を指します。団体の規模が小さいからといって法令を無視することはできませんが、一方で、違反した際の影響度は団体によって異なります。そのため、コンプライアンス(法令違反や規程への違反)もまた、リスクマネジメントの観点から優先順位をつけて対応していく必要があります。
そして、規程というのはそのようなコンプライアンス・リスクに対応するための手段の一つです。
Ⅱ なぜ「規程」が必要なのか? 規程がもたらす二つの価値
そして、助成の申請をする際には、このようなコンプライアンス・リスクに対応するための手段として、規程の整備が求められることも少なくありません。なお、当団体が行った「助成事業におけるリスクマネジメントに関する実態調査 報告書」p21では、全体の6割弱(59.5%)が規程類の提出を求めているというデータがあります。
では、規程を整備することによって、実質的に何が求められ、期待されているのでしょうか
① 内部的な認識の統一と議論の深化
規程を作成する最大のメリットの一つは、その「作成プロセス」にあります。作成の過程で、団体内で「何をすべきか」「どのようなルールで運用すべきか」を徹底的に議論することになります。このプロセスを経ることで、スタッフ同士の認識合わせ(目線合わせ)ができ、組織としての行動指針が明確になります。
前述の公益法人協会の資料では、「内部規程を整備しこれを遵守することで、 組織全体のコンプライアンス意識を高め、不正行為の発生を抑制することができます。加えて、内部規程は、単に法令遵守を目的とするだけでなく、組織文化の醸成や組織運営の効率化にも役立ちます。」とも述べられておりますが、まさに前述のメリットと同様の視点です。
② 外部への説明責任(アカウンタビリティ)の履行
ただ、内部規程を整備することは、内部的な認識の統一・議論の深化にとどまらないメリットがあります。
どれほど内部で優れたルールを決めて運用していても、それが明文化されていない限り、外部からは見えません。規程として明文化されていることで、自治体との連携、企業への協働依頼、寄付者への説明など、外部のステークホルダーに対して自団体の透明性と信頼性をアピールしやすくなります。特に助成金の申請や寄付を募る際、適切な規程が運用されていることは、組織の健全性を示す強力な証拠となります。
Ⅲ 実効性のある規程を作成するためのステップ
規程を組織の体質に馴染ませるためには、作成の順番が重要です。
ステップ1:防ぎたいリスクと対策の明確化(実質から考える)
多くの団体が、既存の雛形をそのままカスタマイズして規程を作ろうとしますが、それでは実態と乖離してしまいます。まずは「そもそもこの規程でどのようなリスクを防ぎたいのか」を明確にすることから始めましょう。そして、そのリスクを防ぐために必要な対策を「行動ベース」で考えます。
ステップ2:実体を行動計画として落とし込む
形から入って実質を整えるのではなく、実質(必要な行動)がある中で、それを後から規程という形に落とし込んでいくアプローチが理想的です。これにより、団体の実情に即した、運用しやすい規程になります。
ステップ3:双方向の検討プロセス
ただし、いきなり「必要なアクション」を考えることもハードルが高いので、一度で完璧なものを作ろうとせず、まずは規程案を見ながら「どのようなアクションが必要か」を考え、その中で団体独自の行動計画を具体化していくという、往復のプロセスを大切にしてください。
Ⅳ 規程の浸透策
規程は作って終わりではありません。それを実行に移して初めて価値が生まれます。そして、その実行を定着させるためには、タスク化と説明の機会の2点が重要です。
1 誰が・何をすべきか(タスク化)の徹底
規程の各条文について、具体的に「誰が」「どのような行動を」とる必要があるのかを明確にします。これはタスク化と言い換えることもできます。もし運用が追いつかないほど複雑な規程になってしまった場合は、リスクマネジメントの観点から優先順位を見直し、どの部分から実質化(実行)を進めるかを検討しましょう。
2 「説明」の機会を組み込むことによる強制力の創出
規程の定着に極めて有効なのが、内外への「説明」の機会を設けることです。
- 外部への説明: 年に一度、外部専門家と団体のコンプライアンス政策について議論する場を設けたり、寄付者や助成元に対して運用状況を積極的にアピールしたりします。「しっかりやっています」と外部に公言することで、「公言したからには実行しなければならない」という健全なプレッシャーが団体内に生まれます。
- 内部でのコミュニケーション: 大きな団体であれば、スタッフからマネージャーへ、あるいは理事が現場スタッフへ、規程の遵守状況を説明する機会を設けます。この相互の説明責任が、組織全体の意識向上につながります。
Ⅴ まとめ:理想の組織運営に向けて
規程類は、団体の体制を整える上で非常に有効なツールです。しかし、その実効性を高めるためには、相応のエネルギーを要します。助成金の申請や、行政からの受託のために、とにかくすぐに作らなければならないような場合もあるかと思います。
しかし、一度にすべてを完璧にしようとする必要はありません。自団体にとってどのリスクが最も重要かを見極め、優先順位をつけて一つずつ規程を形にし、実行に移していくこと。その積み重ねが、皆様が目指すミッションの達成と、理想の組織状態へと近づく確かな一歩となるはずです。
本ポータルサイトでは、規程作成以外にも様々なリスク対策を紹介しています。それらと規程を組み合わせることで、より強固なリスクマネジメント体制を築いていただければ幸いです。
