この記事では、よく予防策や体制構築が求められる事項について、リスクマネジメントの観点から分析し、具体的な対応策を検討します。今回のテーマは「ウェブ上での炎上」です。
リスクを検討するときには、炎上を招く具体的な事例や、炎上時に具体的に団体にどのような影響があるかという点までセットで考えることが重要です。本記事では、団体として、炎上のリスクをどのように見積もり、どのように防止策を講じるべきか、検討していきます。
I 炎上とは
「炎上」とは、ウェブ上において特定の個人や団体に対してバッシングが殺到する状態を指します。炎上の内容について実際に団体に非があるか否かを問いません。
炎上に参加しているのはインターネット利用者の1%未満と言われていますが、ごく少数の者が膨大な書込みを繰り返すことで、あたかもそのバッシングが社会全体の総意であるかのような強い圧力を生み出します。
また、ネット上での炎上がテレビのバラエティ番組やニュース番組において取り上げられた場合、それを見た視聴者がさらにSNSで反応・拡散するというサイクル(間メディア空間)における相互作用によって、炎上は爆発的に増大します。
II 炎上のリスク
次に、炎上のリスク分析として、発生可能性及び発生時の影響度を考えましょう。
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発生可能性
炎上の発生可能性は、以下のような、組織内のチェック機能が形骸化している状況や、発信者のリテラシーに依存している場合に高まります。ただし、炎上は自団体に非のない場合であっても唐突に生じるおそれがあることに注意が必要です。
- アンコンシャス・バイアスに対する感度が低い場合:自団体が取り組む活動に関する意識は高い場合でも、その副次的な作用や活動の枠外にいる方に対して十分な思慮を欠く場合があります。たとえば、国際協力団体が救済されるべき弱者として特定の人種の子供をステレオタイプに描いた写真を掲載し、その人種・属性の方の尊厳を傷つけていると批判されるケース等が想定されます。
- SNS等の運用についてチェック体制が機能していない場合:団体の職員が、他の職員等のレビュー等なしにSNS等の運用を一任されている場合、過激な発言その他団体の意図せぬ投稿を行い、炎上に繋がる場合があります。
- 過去に不祥事があった場合:現在の団体自体に問題はなくても、過去の団体や職員等の不祥事やトラブルが掘り返される場合があります。たとえば、十分な更生を行ったため団体として問題ないと判断した職員の過去の犯罪歴について、更生の経緯等を無視して取り上げられるケースが想定されます。
その他、団体に非のない場合でも、団体規模が大きい場合、、メディアへの露出が多い場合、特に賛否の分かれる社会問題を扱っている場合等は、炎上の対象として選定される可能性が高まります。
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影響度
自団体が炎上してしまった場合、以下のような影響が考えられます。
- 問合せ対応による負荷:団体への抗議の電話やメールが殺到し、その対応に多大な工数を要することによって、本来行うべき事業運営が不可能になるおそれがあります。また、これらの対応は職員にとって大きな精神的負荷になることから、職員の離職等にも繋がります。
- 信頼の低下:炎上の真偽にかかわらず、炎上したこと自体をもって社会的な信頼を失う場合があります。その結果、事業を行うために必要なパートナーとの関係が断絶すること、支援対象の方々から支援を拒絶されること、さらに獲得していた助成金等について打ち切られること等も考えられます。
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発生可能性と影響度の評価
以上を踏まえますと、リスクの発生可能性及び影響度を3段階で評価する場合、SNS炎上の発生可能性については「低」から「中」、発生した場合の影響度については、営利ではなく信頼を活動基盤とする非営利団体の性質上「高」と整理すべきでしょう。
III SNS炎上のリスクマネジメント
SNSのリスクを低減させるには、個人の善意や注意に頼るのではなく、火種を作らないことと延焼を防ぐことを意識することが重要です。
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炎上可能性のある事象の洗い出し
まず、自団体にとって何が火種になり得るのかを客観的に洗い出します。
- 事業内容に関連する炎上可能性の特定:たとえば、福祉、ジェンダー、環境問題など、社会的に意見が分かれやすいテーマを扱っている場合、どの表現が特定の層の反発を招くか、過去の他団体での炎上事例を参考に洗い出します。なお、洗い出しの意図は、炎上リスクを回避することではなく把握することにあります。団体の姿勢として投稿すべき内容を過度に控えるべきではなく、炎上リスクがあることを認識し、炎上時の方向性を検討したうえで、あえて投稿する姿勢も大切であると考えます。
- アンコンシャス・バイアスに対する意識:団体の事業に関して、不用意なステレオタイプへのあてはめや意図せぬ貶め等が無いかを確認します。アンコンシャス・バイアスは自団体の職員のみでは気付き辛いため、団体外の知人等にヒアリングを行っても良いかもしれません。
- 役職員の過去の言動:代表者や職員が過去にSNSで行った発言や活動歴等が、現在の活動指針と矛盾していないか、火種になりそうなものはないかも洗い出すことも考えられます。
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チェック体制の構築
特定個人の感性に頼る発信は、炎上リスクを高めます。作成者と公開承認者を分け、承認者が内容の正確性に加えて社会的な受け取られ方も意識することで、複眼的に炎上を防止することができます。
また、特に発信の多い団体においては、禁止事項(差別的表現、政治・宗教への過度な干渉、機密情報の漏洩等)をガイドライン等にて明文化することで、組織全体の規律を確保する方法も考えられます。
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エゴサーチのルーチン化
炎上は、大きくなる前に発見すればより有効な対策を講じることが可能です。自団体名、代表者名、関連するプロジェクト名をGoogleアラートやSNSの検索機能に登録し、定期的に確認することにより、炎上の火種を早期に発見することができます。
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緊急時対応の体制構築
炎上が発生した際には、迅速な対応が求められます。予め、誰が・何を・いつ行うかを決めておくことで、迅速な対応が可能となります。たとえば、意思決定者を確定させておくことや、テーマごとに謝罪をするか反論をするかの判断基準を検討することが有効であると思われます。
また、弁護士等の外部専門家に対して早期に相談することも有効です。炎上対応に長けた弁護士等も多く、特に批判が誹謗中傷や営業妨害、名誉毀損に当たる場合や、法的な正当性を主張すべき局面では、外部専門家のサポートが有効に機能します。定常業務にて依頼している弁護士等において炎上対応が可能かを確認し、難しい場合には予め紹介を受けておくことも、リスクの高さ次第では考えられるかもしれません。なお、依頼する弁護士等に思い当たる方がいらっしゃらない場合、BLP-Network<https://www.blp-network.com/for_npo-socialsector/>では皆様の活動を応援する弁護士を紹介しています。
以上のように、SNSのリスクを具体的に特定し、日常的な運用の中にチェック機能を組み込むことで、インターネットを通じた健全な情報発信と、団体の社会的信用の維持を両立させることができると考えられます。
(岡田一輝)
