今回のテーマは「役員の報酬」です。

リスクを検討するときには単に「役員の報酬に関するリスク」と抽象的に考えるのではなく、役員報酬に関する不祥事が起きたら具体的に団体にどのような影響があるかという点までセットで考えることが重要です。

本記事では、団体として、役員の報酬のリスクをどのように見積もり、どのように防止策を講じるべきか、どのような費用がかかるのかについて検討します。本記事は、特に一般社団(財団)法人、公益社団(財団)法人について考えられるリスクの内容、その影響度及び発生可能性、講ずるべき対策の内容とその費用について論じていきます。NPO法人の場合については、こちらの記事(「役員報酬」とリスクマネジメントから考えるその①NPO編)を、一般社団法人の場合については、こちらの記事(「役員報酬をリスクマネジメントから考えるその②一般社団編)を、それぞれご参照ください。

また、以下、「報酬」とのみ記載していますが、「報酬」以外であっても、賞与、退職金など、業務遂行の対価として役員等が受ける財産上の利益全てが規制の対象であることに注意してください。

1 法律上の規制

(1)概要

公益社団(財団)法人とは、公益目的の事業を行うと行政から認定を受けた一般社団(財団)法人であるため、一般社団(財団)に適用される法律上の規制に服します(一般社団(財団)の報酬とリスクマネジメントについては、こちら)。以下では、公益社団(財団)法人特有の法律上の規制に関するリスクについて論じます。

公益社団(財団)法人においては、①役員の報酬に関して、民間事業者の役員の報酬及び従業員の給与、当該法人の経理の状況その他の事情を考慮して、不当に高額なものとならないような支給の基準を定め、②その基準に従って役員に対して報酬を支給することが求められています。そして、③その支給の基準においては、勤務形態に応じた報酬の区分及びその額の算定方法、支給の方法、形態に関し定める必要があるとされています(内閣府公益認定等委員会 内閣府大臣官房公益法人行政担当室「公益認定等に関する運用について(公益認定等ガイドライン)」(令和6年12月改訂)https://www.koeki-info.go.jp/regulations/documents/byxewbt1b9.pdf参照)。

ここで、一般社団(財団)法人全般に係る規制(「Ⅰ」の項目で紹介しました、役員の報酬は定款又は社員総会の決議に基づき支給される必要があるという規制)を意識した上で、公益社団(財団)法人において定款を定める形で役員に報酬を支給する場合の、その定款の具体例を示すので、参考にしてください。

[定款の具体例]

○公益社団法人の場合

(役員の報酬等)

(A)

第27条 理事及び監事に対して、<例:社員総会において別に定める総額の範囲内で、社員総会において別に定める報酬等の支給の基準に従って算定した額を>報酬等として支給することができる。

(B)

第27条 理事及び監事は、無報酬とする。ただし、常勤の理事及び監事に対しては、<例:社員総会において別に定める総額の範囲内で、社員総会において別に定める報酬等の支給の基準に従って算定した額を>報酬等として支給することができる。

 

○公益財団法人の場合

(役員の報酬等)

(A)

第27条 理事及び監事に対して、<例:評議員会において別に定める総額の範囲内で、評議員会において別に定める報酬等の支給の基準に従って算定した額を>報酬等として支給することができる。

(B)

第27条 理事及び監事は、無報酬とする。ただし、常勤の理事及び監事に対しては、<例:評議員会において別に定める総額の範囲内で、評議員会において別に定める報酬等の支給の基準に従って算定した額を>報酬等として支給することができる。

[内閣府「公益認定のための『定款』について」(令和6年12月改訂版)より引用]

 

(2)支給の基準について

ア どのような支給の基準を定めればよいのか

「理事の報酬額は理事長が理事会の承認を得て定める」のような支給基準とすることは報酬科目や算定方法が明らかにされず、公益認定基準を満たしたとは認められません。

理事等に対する報酬の支給の基準においては、理事等の勤務形態に応じた報酬の区分及びその額の算定方法並びに支給の方法及び形態に関する事項を定めるものとされています。

(ア)理事等の勤務形態に応じた報酬の区分とは、常勤役員、非常勤役員の報酬の別等をいい、例えば、常勤理事への月例報酬、非常勤理事への理事会等への出席の都度支払う日当等になります。

(イ)その額の算定方法とは、報酬の算定の基礎となる額、役職、在職年数等により構成される基準等をいい、どのような過程をたどってその額が算定されるかが第三者にとって理解できるものとなっている必要があります。例えば、役職に応じた一人当たりの上限額を定めたうえ、各理事の具体的な報酬金額については理事会が、監事や評議員については社員総会(評議員会)が決定するといった規定は、許容されることになります(国等他団体の俸給表等を準用している場合、準用する給与規程(該当部分の抜粋も可)を支給基準の別紙と位置付け、支給基準と一体のものとして行政庁に提出することになります。)。

一方、社員総会(評議員会)の決議によって定められた総額の範囲内において決定するという規定や、単に職員給与規程に定める職員の支給基準に準じて支給するというだけの規定では、どのような算定過程から具体的な報酬額が決定されるのかを第三者が理解することは困難であり、公益認定基準を満たさないものと考えられます。

また、退職慰労金について、退職時の月例報酬に在職年数に応じた支給率を乗じて算出し

た額を上限に各理事については理事会が、監事や評議員については社員総会(評議員会)が

決定するという方法も許容されるものと考えられます。

なお、いずれの報酬についても、不当に高額なものとならないよう支給の基準を定める必要があることに注意が必要です。

(ウ)支給の方法とは、支給の時期(毎月か出席の都度か、各月又は各年のいつ頃か)や支給の手段(銀行振込みなど)等をいいます。

(エ)支給の形態とは、現金・現物の別等をいいます。ただし、報酬額につき金額の記載しかないなど金銭支給であることが客観的に明らかな場合は、「現金」等の記載は特段必要ありません。

イ 支給の基準の公表

理事等に対する報酬の支給の基準については、行政庁において、公益法人から提出を受けた書類の公表の一環として公表されることになります。また、支給基準を記載した書類を事務所に備置き、閲覧請求等に応じる義務があります。

(2)報酬額の開示・公表について

支給基準の公表に加え、理事や監事ごとの実際に支給した報酬額について、財産目録等の書類を行政庁に提出することが法律上求められており、提出を受けた行政庁は、当該書類について公表することになっています。

また、公益法人から受ける財産上の利益の合計額が2000万円を超える役員が存在する場合には、当該額及びその必要の理由を記載した書類も行政庁に提出する必要があります。この書類についても行政庁によって公表されることになります。

ウ 「不当に高額」と考えられる報酬について

公益法人において適切に情報開示が行われている場合には、民間事業者の役員の報酬及び従業員の給与、当該法人の経理の状況その他の事情を考慮して、通常想定される額を著しく上回り、これを放置すると公益法人制度に対する国民の信頼・信任を得られなくなると判断される場合に限り、行政庁として「不当に高額」と判断されることになります。その際、「不当に高額な報酬」の額については、金額の絶対値のみに着目して判断することは、法人の多様な実態に照らして現実的ではなく、また、安易に上限を定めることは適切ではないとされています。

例えば、合理的な理由がないにも関わらず、「同種・類似法人の役員報酬の2倍超」の役員報酬が支給されるような場合は、不当に高額な報酬に該当すると考えられます。

なお、役員報酬に関する情報開示が適切に行われていない場合には、法人のガバナンス

が機能していないと考えられることから、社会通念に照らして通常想定される額を大きく上回るときには、行政庁として「不当に高額」とみなし、後述のような監督措置を講ずる余地があるとされています。

 

2 具体的な影響及び発生可能性

(1)報酬に関する法令違反があった場合に課され得る、法律で定められている制裁

・行政上の制裁

まず、法令違反が疑われることを理由として、行政庁から法人に対して勧告がなされる可能性があります。そして、勧告された内容については行政庁によって公表されることになっています。

さらに、この勧告に係る措置を法人において講じなかった場合には、その勧告に係る措置を講じるよう命令が行政庁から出されてしまう可能性があります。この命令が出されたという事実については行政庁によって公表されることになっています。

そして、この命令に従わない場合には、公益認定が取り消されてしまうことになります。また、不当に高額となるような支給の基準を定めてしまったような場合にも、公益認定が

取り消されてしまうことになります。公益認定が取り消されたという事実については行政庁

によって公表されることになります。

また、上記のとおり、報酬の支給の基準を記載した書類等を書類を提出せず、又はこれに虚偽の記載をして提出した場合には、公益法人の理事、監事又は清算人は、50万円以下の過料に処されることになります。

・刑事上の制裁

上記のとおり、報酬の支給の基準を記載した書類等又は電磁的記録を備え置かず、又はこれらに記載し、若しくは記録すべき事項を記載せず、若しくは記録せず、若しくは虚偽の記載若しくは記録をした場合には、法人やその代表者等に対して、30万円以下の罰金という刑事罰が科せられる可能性があります。

(2) 具体的な影響

・寄付金や助成金を獲得することができなくなるリスク

法令違反が社会的に明らかになった場合には社会的な信用が低下し、寄付金や助成金を獲得することが難しくなり、運営が立ち行かなくなってしまう可能性は大きいといえます。

また、公益法人認定が取り消された場合には、当該法人は、一般社団(財団)法人となることになり、公益法人認定を受けていた時ほどの社会的信用を得ることが難しくなり、この結果、寄付金や助成金の獲得は従前よりも困難なものとなります。

・人材流失のリスク

法人内で、従業員の法人におけるガバナンス体制に対する不信感から、当該法人を退職するなどにより、運営上支障が生じる可能性もあります。

・税法上の優遇が受けられなくなるリスク

公益法人認定が取り消された場合には、公益法人認定を受けていた時の税制上の優遇を受けることができなくなってしまいます。そのうえ、公益認定が取り消された後、5年間は再び公益認定を受けることができなくなります。

(3)発生可能性

上記のように、行政庁による監視監督体制が敷かれているほか、適切に書類を提出しなかった場合には、法人の理事、監事又は清算人は、50万円以下の過料に処されたり、法人の代表者等に対して刑事罰が科せられたりするなど、個人に対する制裁がなされる可能性もあることに鑑みると、リスクの発生可能性の程度は、一般社団(財団)法人の場合と比べて低

いと考えられるでしょう。

3  影響度及び発生可能性の評価

(1)影響度

上記のようなそれぞれのリスクは、いずれも公益社団(財団)法人を運営するにあたって大きな障害となります。

そのため、影響度としては「高」といえます。

(2)発生可能性の評価

公益社団(財団)法人の場合、行政庁による厳しい監督・指導のもとに置かれることになります。また、上記のような個人に対する責任が課される可能性が法律上定められています。

そのため、一般社団(財団)法人の場合と比べると発生可能性は低いといえますが、あくまでもそれは行政庁による監督・指導が行き届いており、提出するべき書類が適切に作成、管理がされていることが前提です。公益社団(財団)法人においても、一般社団(財団)法人の場合と同様に、やはり内部における監督・指導の体制は重要となります。

以上を踏まえると、そのような体制が十分に整えられている場合(例えば、外部の専門家へアドバイスを定期的に求めることや、法人内で頻繁に啓発を行なっているような場合) には発生可能性は「低」、十分に整えられていない場合には発生可能性は「中」といえます。

 

3 講ずるべき対策及び費用 

講ずるべき対策 費用
役員及び経理担当の従業員に対する研修の実施 研修実施コスト
実効性のある監督・指導体制の構築 専門家(税理士や弁護士など)に体制構築に関する相談をする、専門家を含めた第三者を役員として選任するコスト
自身のホームページ上等で支給基準について公開する ホームページ作成&管理コスト

 

4 まとめ

以上のように、役員報酬を巡っては、法人の種類によって、様々な規制が存在することが分かります。そして、そうした規制に引っかかるような運営をしてしまった場合のリスクというものは大変に大きなものであるということもお分かりいただけたのではないでしょうか。

そのリスクの発生が小さくなる方法を本記事や専門家の意見などをもとに模索されつつ、健全でかつ持続性のある運営を行なっていただき、貴団体の公益的な目的が十分に達成されることをお祈りいたします。

(池山睦衛)