非営利団体にとっての業務分掌とは
一般的な業務分掌は「組織の部門それぞれの担当役割を明文化したもの」とされていますが、非営利団体にとってこうした業務分掌が必要になるタイミングはいつでしょうか。
課題が生じてから必要に迫られて作る組織や、助成金の獲得においてガバナンス強化を求められて作ることもあるかもしれません。しかしながら、日々多様な業務に当たる非営利団体にとって、組織体系が曖昧で個々人の業務範囲の明文化が難しく、業務分掌を作成するイメージが沸かない団体も少なくないと思います。
そんなメリットがわかりにくい業務分掌について、リスクマネジメントの観点から存在意義をお伝えしたいと思います。
まず、リスクを把握する上で重要なキーワードとして「内発的動機づけ」「人材流動性」を抑えていきましょう。
①内発的動機づけ
人が何かしらの行動を起こすモチベーションには「内発的」なものと「外発的」なものが存在します。どちらが良い悪いではありませんが、人によってその二つのバランスの重み付けが異なることには注意が必要です。
活動自体が楽しくやりがいを感じることで行動を起こす内発的動機づけに対して、外部からの報酬(お金や評価)で行動を引き出す方法を外発的動機づけといいます。資金力が弱い非営利団体は外発的動機づけを苦手とする一方、ミッションへの共感や社会貢献の満足感を源泉とした内発的動機づけに強みがあり、ボランティアを含むスタッフの自律的な活動を促進します。
②人材流動性
非営利団体のもう一つの特徴に中心メンバー(事務局)の人材流動性の低さが挙げられます。PTAなどの一定期間で代表を含むメンバーの代替わりが発生する団体を除き、非営利団体の事務局の交代は容易ではありません。非営利団体は報酬による外発的動機づけを苦手とするため、内発的動機づけによって活動をこなせる人材を獲得しなければなりませんが、そうした人材はなかなか見つからないためです。
一方で、ボランティアを含むスタッフの流動性は比較的高く、フードパントリーなど人手を要する活動の場合は日替わりでスタッフが入れ替わることさえあります。人手を要する事業はスタッフが流動的でも一定の行動品質を保つため、教育体系や運営のマニュアル化などを進めることで、ボランティア参加のハードルを下げる工夫をしています。
(i)リスクの内容
業務分掌を持たない場合、下記のような事案が発生する可能性があります。
①意思決定範囲の曖昧さによる機会損失
創業初期や少人数組織でコミュニケーションが密に取れている場合は、情報の透明性が高い状態が維持されますので、合意形成のコストが低い状態で意思決定が進みます。しかし、業務量の拡大に伴い、役割分担や権限移譲が進むことで徐々に意思決定が分岐することで合意形成が難しくなります。
子ども向けに学習支援を行う団体の例を紹介します。利用者が拡大し、学年別に支援体制が別れた際に、必要な教材を購入する際の意思決定フローを明確にしていなかったため部門間の調整に時間がかかり、学習提供機会の遅延が発生するケースが発生してしまいました。このような情報共有レベルが落ちた状況が長く続くとスタッフのモチベーションが低下するだけではなく、部門間で不都合な情報を隠すようになってしまう可能性もあります。組織がこのような成長段階に至った場合、横断的な会議体の設計や詳細な業務分掌の作成が必要になります。
②事務局における人材の固定化・属人化
業務範囲が多岐にわたる事務局メンバーは、一つのミッションの元に結束して事業を推進できる動機を共有しており、指示を待たず自立的かつ柔軟に行動できる強みがあります。反対に、組織にとって弱みに繋がってしまうのが事務局の属人化です。非営利団体の事業承継の困難さはここから生じることが多く、人材を固着化させる要因が皮肉にも自立性と柔軟性です。
事務局内メンバーの強い結束に綻びが生じると、事業を停滞させかねないリスクを伴います。助成団体はこうしたリスクを低減させるために、一部のメンバーのみで組織されないよう情報開示や各種規定類の整備を要求します。業務分掌もその一部です。業務分掌の作成は自律的に実践する行動を否定することではありません。担当者が急に退職した場合でも、重要な業務を滞らせないことが事業の継続には必要ゆえ、業務分掌を作成しておくことが求められます。
(ii)リスクの高低の判断方法
活動を始めた初期段階では、藪の中を切り開いて道を切り開くような手探りな状態ゆえ業務のマニュアルはもちろん存在しません。一方、先駆者が切り開いた道の上を他の人も歩けるよう整備するような成長段階においてはマネジメント力が求められます。自団体の成長段階を見極め、リスクを俯瞰して捉えることで業務分掌の重要度を把握することにつながります。
業務分掌を持たないリスクについてどのように考えらえるでしょうか。大きく分けると、組織の成長段階が前期(創業期〜成長期)の少人数規模で行う未成熟な事業を運営している場合かつ助成金を含めた外部資金の調達が無い(または少額)の場合はリスク低、その反対に成長段階が後期(成熟期〜承継期)の一定の人数規模で行う成熟した事業を運営している場合かつ外部資金を調達している団体の場合はリスク高と考えるべきでしょう。
(iii)リスクの把握と対応策
こうしたリスクを適正に把握し、ガバナンスを強化させる上でまずは自団体の組織図を作ってみることをお勧めします。
非営利団体の構成要素を「管理部門(事務局)」と「事業部門(非営利活動)」に大別した場合、二つの部門に同一人物が所属することがあります。
例えば、子ども食堂を運営する非営利団体の理事B氏は、管理部門の事務局長と事業部門の学習支援のリーダーを兼務する、などがそれにあたります。人手が少ない非営利団体のスタッフは業務を兼務することが一般的で、代表が一人三役をこなしていることも珍しくありません。
実態に即した自団体の組織図を作成することで、特定の人に負荷が集中していることや、不足している業務に気がつくことに繋がります。また、業務の切り分け部分が明確になり、一部分だけ他のスタッフへ引き継ぐことが可能になります。また、重要な意思決定を個人に委ねず、総会等の会議体で行うこともガバナンスの強化に繋がります。
組織の中で求められる業務と人を適正にマッチングさせるために、スタッフ一人一人には細かく目を向け、組織には成長段階を長期的な目線で俯瞰する、双方の視座をもって組織図ならび業務分掌を作成することで、強固な組織が形成されていきます。
一般社団法人ソーシャルビジネス・コンサルタントグループ 代表理事(中小企業診断士)
(朝比奈 信弘)

