この記事では、よく規程の整備が求められる事項について、具体的な対応策をリスクマネジメントの観点から分析し、具体的な対応策を検討します。今回のテーマは「私的利益の追求の禁止」についてです。休眠預金事業でも、私的利益追求の禁止は、倫理規程等において定めることが求められています。
リスクを検討するときには単に「私的利益の追求は禁止されている」と抽象的に考えるのではなく、私的利益を追求してしまうと、具体的に団体にどのような影響があるかという点までセットで考えることが重要です。本記事では、団体として、そのリスクをどのように見積もり、防止策を講じるべきか、どのような費用がかかるのか、検討していきます。
なお、団体の外部者への利益誘導に関しては、本ポータルの「特別の利益を与える行為の禁止」をご参照ください。
Ⅰ はじめに
私的利益追求の禁止は、倫理規程に盛り込まれることが多いですが、なぜ禁止されるのでしょうか?
「他人のものを盗ってはいけません!」というような、いわば「当たり前」のこととして、日頃はあまり深掘りされないかもしれません。
しかしながら、例えば、私的利益追求の典型例である、団体の資産に対する横領が起きてしまうと、不当な資産流出となるだけでなく、「当たり前」のことすらできていない団体、という評価を受けるおそれがあります。
こういった評価を受けてしまうと、寄附や助成の獲得などの資金調達が困難となり、団体の財務に大きな影響を与えるかもしれません。
民間企業でも、役職員による私的利益追求を禁止することは重要事項ですが、とりわけ、公的な分野では、団体の存続そのものに影響を及ぼすおそれがあります。
Ⅱ 禁止される「私的利益追求」とは?
ここで、私的利益追求の禁止にかかるリスクの具体化のため、禁止される行為を考えていきます。
まず、「私的利益」とは、どういった利益でしょうか?
「団体の職員として働き、団体の規則通りの報酬をいただく」、これは何の問題もなさそうですね。
私的利益追求の禁止、が倫理規程に盛り込まれる事項であることを鑑みると、ここでいう「私的利益」は、倫理や法律に反する利益に限定されるといえそうです。
そうすると、先の「団体の職員として働く」という場面では、例えば、カラ残業やカラ出張のような、実体のない稼働に関して、団体から報酬を得ることが、禁止される「私的利益追求」となります。
その他にも、典型例としては、私的な費用(遊興費、飲食費、物品購入費など)を、団体の正規の支出であるかのように偽って、団体に負担させる行為や、もっと単純に、現金を不正に持ち出す行為、団体の預金を自身の口座に送金する行為など、いくつか挙げられます。
なお、限界的な事例としては、関係先からの不相当な贈答の受領や、過度に便宜を受けるなど、団体の業務に関連するが、個人的な受益が過剰である場合が挙げられます。こういった、いわばぎりぎり事例まで含めて、倫理規程で自主規制するかは、団体のポリシーや業態によります。
Ⅲ 「私的利益追求」の評価と不祥事の例
では、私的利益追求は、法的にはどのような評価となるでしょうか。
記事の冒頭に、私的利益追求の例として、横領を挙げましたが、他にも、窃盗、詐欺、背任など、刑法に定める財産的犯罪となることが考えられます。
民事の観点からも、被害を受けた団体から、債務不履行や不法行為に基づく賠償請求、または得た私的利益が不当利得にあたるとして、返還請求を受ける可能性があります。
ここで、さらに理解を深めるべく、公開情報をもとに、実際の事案を見ていきます。なお、本記事の趣旨からして、団体としては健全な活動をしているが、一部の内部者の私的利益追求により、団体運営に混乱が生じた事案を見ていきます。
| 団体 | 類型 | 概要と原因 |
| 公益社団法人 日本PTA全国協議会1 |
背任 | 役員による工事代金の水増し(約1200万円)による資金流出 →理事会決議なし、業務執行理事のチェック不備、など |
| 公益社団法人 24時間テレビチャリティー委員会2 |
横領 | 会員(テレビ局)の従業員による寄付金(約260万円)の着服 →寄付された現金の管理が不十分 |
| 特定非営利活動法人 まちづくり情報センターかながわ3 ※解散済み |
横領 | 会計担当理事による団体預金(約400万円)の私的費消 →理事会再編、行為者への権限集中、チェック機能なし、など |
| 特定非営利活動法人 しんぐるまざあず・ふぉーらむ4 |
横領 | 会計担当者による団体預金(約800万円)の私的費消 →行為者への権限集中、チェック機能なし、など |
他にも、公益団体における、私的利益追求に関する不祥事は多数報道されておりますが、どの事案も、特定の個人に権限が集中している、属人化や人的リソース不足で団体内で相互牽制がない、など、不正が起きる条件が整っていた印象を受けます。
Ⅳ リスクの評価
ここでは、私的利益追求に関するリスクについて分析します。なお、この記事は、団体の規模が大きく、財務面でも潤沢な団体の関係者を読者として想定しておりますので、そういった団体をモデルとして分析します。
・発生可能性
団体が活動するにあたり、抽象的には、常に発生の可能性がありますが、規模の大きい団体ほど、理事会や代表理事の目が届かない部分が増えるため、発生可能性は高い、とします。
・影響度
上記のとおり、私的利益追求の事案が発生すると、基本的なガバナンスすら不十分な団体という評価を受けてしまい、資金調達が困難になり、また、レピュテーションの問題から、活動そのものができなくなるおそれが想定されます。そのため、影響度は大きい、と考えます。
・リスクの高低の判断
上記のとおり、発生可能性、影響度ともに大きいことから、私的利益追求リスクは、非常に高いものと評価します。
Ⅴ リスクへの対応
私的利益追求の禁止に限った話ではありませんが、不祥事予防に資する考え方として、不正の3要素について紹介します。
不正の3要素は、ざっくりと説明すれば、人間が不正を働く場面では、「機会」、「動機」、「正当化」という、3つの要素が存在することが多い、という経験則です。個々の要素の説明は割愛しますが、こういった要素が団体にないか、確認するのが有効です。
不正の3要素を、私的利益追求リスクの制御の場面で考えてみると、例えば、横領を想定して、
- 機会:会計につき、複数人でのチェック体制など、仕組みにより個人の裁量を限定
- 動機:普段から団体内部で従事者同士が良くコミュニケーションをとり、不正の予兆を検知する
- 正当化:倫理規程の趣旨と内容の周知徹底や、継続的な教育の実施
といった対策が有効と考えます。
こういった対策にあたっては、セルフチェックでも十分可能と考えますが、第三者的視点があると、より対策の精度が増しますので、会計士や弁護士など、ガバナンスの専門家に相談するのも一案です。規程に定める際にはさしあたり私的利益追求を禁止する旨の抽象的な記載があることで十分ですが、具体的な対策も含めて検討することでより実効性が高まることになります。
Ⅵ まとめ
上記のとおり、団体の内部者による私的利益追求は、団体財産の毀損にとどまらず、管理体制の危うい団体という評価をされ、団体の存続そのものに影響を及ぼします。
不正の3要素を意識して、団体内部での相互牽制の確立など、仕組みとして私的利益追求を制御するのが望ましいです。BLP-Networkには、こういった仕組みづくりに通じた弁護士も所属しておりますので、必要あればお声掛けください。
(渡邊賢)
