この記事では、よく規程の整備が求められる事項について、具体的な対応策をリスクマネジメントの観点から分析し、具体的な対応策を検討します。今回のテーマは「文書管理」です。

リスクを検討するときには単に「文書管理のリスク」と抽象的に考えるのではなく、文書管理に関する不祥事が起きたら具体的に団体にどのような影響があるかという点までセットで考えることが重要です。本記事では、団体として、文書管理のリスクをどのように見積もり、どのように防止策を講じるべきか、検討していきます。

 

Ⅰはじめに

NPO法人(特定非営利活動法人)においては、法律上、主に以下の文書を作成して保管・管理することが求められています。

  • 毎事業年度初めの三月以内に、前事業年度の事業報告書等を作成し、これらを、その作成の日から起算して五年が経過した日を含む事業年度の末日までの間、その事務所に備え置かなければならない(特定非営利活動促進法28条1項)。
  • NPO法人は、役員名簿及び定款等を、その事務所に備え置かなければならない(同条2項)。
  • 収益事業収益事業を行うNPO法人は、法人税法等に基づいて帳簿書類を保存しなければならない。

加えて、認定NPO法人の場合、認定申請の添付書類や役員報酬規程等を一定期間備え置かなければならないとされています(特定非営利活動促進法54条)。

 

このように、法律上、文書管理が求められることもありますが、これらに限らず、NPO法人が自主的に「文書管理規程」を策定し、それに従うのが通例です。事務を正確かつ効率的に処理して組織を適切に運営するためには、業務上必要となる文書を一定の基準のもとに作成して保管する必要がありますし、組織のガバナンスの観点から、文書の取り扱いの責任の所在等を明らかにしておく必要もあります。文書の保管が適切に行われていない場合には、例えば、個人情報や機密情報を外部に流出させる危険性も高まります。

 

なお、一般財団法人日本民間公益活動連携機構(JANPIA)の休眠預金活用事業に応募するにあたっては、「文書管理に関する規程」(規程の形式でなく、ガイドラインやマニュアル等の形式でも構いません。)を作成し、①決裁手続き、②文書の整理、保管及び③保存期間を定めることが必須とされています。

 

Ⅱリスクの評価

●リスクの内容

まず、文書管理が徹底されない場合のリスクとしては、以下のものが考えられます。

  •  法律上の文書作成・備置義務等に違反して、罰則の対象となるリスク
  •  第三者から資料の開示を求められたときに適切に開示できず、信用を毀損するリスク
  •  情報が漏えいして社会的信用を失うリスク
  •  文書が整理されておらず、適時にアクセスできない結果、内容確認に時間がかかり、業務が滞るリスク
  •  契約書等の文書が適正に作成されなかったり、保管されていなかったりすることにより、トラブル発生時に正当な主張ができないリスク

●発生可能性

上記のリスクが発生する可能性は、個々のNPO法人の事情や業務内容により違いがあるものの、文書管理規程が作成されていない、当該規程があってもその内容が職員に周知されていない、規程通りの運用がなされてない、担当者が明確に指名されていないなどの事情があると、その発生可能性が高まると考えられます。

特に、有償のスタッフが増えてきた場合や、社会保険の加入義務が生じた場合には書類が増え、適切に管理しているか第三者から確認される頻度が高まりますし、助成金の申請や企業・行政からの受託案件をする場合にも、特に会計及び個人情報等の観点から適切な文書管理が求められることが多くなります。

●影響度

上記リスクが発生した場合、NPO法人に以下の影響が出る可能性があります。

  • 外部からの信用を得られず、寄付が集まらないという影響(財務的影響)
  • 休眠預金事業等の助成プロジェクトでの審査が厳しくなったり、選出されなくなったりするという影響(財務的影響・社会的影響)
  • SNS等でネガティブな話題が複数投稿されたり、報道されたりするという影響(社会的影響)
  • 業務の効率低下につながる人材流出・人材獲得困難という影響(人的影響)

例えば、第三者から資料の開示を求められたときに適切に開示できず、信用を毀損するリスクが顕在化した場合、これにより、当該法人の社会的な信用が失われ、助成プロジェクトで選出されないという影響が出たり、職員がより評価の高い他団体に転職したりして人材確保が難しくなるといった影響が出ることが考えられます。

・リスクの高低の判断

リスクの発生可能性については、将来起こり得る不確実な出来事が、どれくらいの確率で起こるかを検討し、高・中・低などランク付けをして判断を行います。前述の通り、法人内部において文書管理の必要性が意識されておらず、かつ、規程等によりルールが定まっていない場合には、リスクの発生可能性が高まると考えられます。

また、影響度については、可能であれば、財務的影響(金額)のように判断基準を数値化してランク付けすると、それぞれのリスクの影響度を比較しやすいと思われます。例えば、財源として外部からの寄付金等の割合が大きい場合で、寄付が集まらないという影響が出る場合、その概算を見積もった上で、リスクの影響度を判断するのが良いでしょう。

最終的に、発生可能性と影響度を掛け合わせて、どのような対応を優先して行うべきか順位付けを行う必要があります。例え発生可能性が高くとも、影響度が小さい場合には、優先順位が低くなり、一旦リスクを保有する(最優先での対策はしない)という判断もあり得ると思われます。他方、行政や企業からの受託、金額が大きな助成金の獲得を目指していて、その申請等の頻度も高いのであれば、文書規程を整備していないことでその目標が達成できない可能性(リスク)が高まることになり、優先順位を上げる必要があります。

 

Ⅲ リスクへの対応

リスクに対応するために、以下のプロセスをとることが考えらます。

①現状の把握

まずは、自らが法律上どのような文書作成・保管等の義務を負っているのか、又は、例えば休眠預金事業においてどのような文書を作成して保管する義務があるのかなど、現状を精査すべきと考えます。加えて、これらの義務に関わらず、業務上必要となる文書とその作成者や決裁者とあわせて保管方法等を整理しておくことも有用です。

 

②規程やマニュアルの整備

①を踏まえて、文書管理規程やマニュアルを書面で作成して文書管理の体制を整えることが望ましいと考えます。なお、前述の通り、JANPIAの休眠預金活用事業に応募するにあたっては、①決裁手続き、②文書の整理、保管及び③保存期間を定めることが必須となっていますので、このような項目を含んだ規程やマニュアル等を作成する必要があります。

 

この点、万全を期すため詳細な規程やマニュアルを作成しようとしがちですが、現実的に実行できないものを作成しても意味がありません。リスクの発生可能性と影響度を考慮した上で、限りある人的リソースを前提とした実務対応可能な体制を整えることが重要です。

 

③職員への周知

②を終えた後は、職員への教育を含めてその内容を周知する方法を検討すべきです。職員が規程やマニュアルの内容を見て文書管理の在り方を理解できているかどうか、実行できているか、定期的にチェックすることが望まれます。

 

④定期的な見直し

一旦体制が整ったとしても、そのやり方が法人にとってベストな方法であるとは限りません。1年に1回、又は半年に1回等、サイクルを決めて文書管理の方法が実務にあっているかどうか見直しをすることが望ましいと考えます。また、リスクの発生可能性や影響度もNPO法人の状況によって変わる可能性があります。その点も考慮して制度の見直しを行うべきです。

 

Ⅳまとめ

以上の通り、リスクマネジメントの観点から「文書管理」を検討すると、どの文書管理の整理から先に始めるべきかなど、対応の優先順位の付け方が明確になる場合があります。優先順位の付け方や規程の作成等、対応に悩んだ際には、弁護士等の専門家に相談することが有益な場合もありますので、専門家の活用についてもご検討いただければと思います。

(「リスクマネジメントのそのあとに~専門家の活用の提案~」(https://www.blp-network.com/2025/07/31/rm_katsuyou/参照)。

 

(鈴木真紀)