この記事では、よく規程の整備が求められる事項について、具体的な対応策をリスクマネジメントの観点から分析し、具体的な対応策を検討します。
今回のテーマは「役員の報酬」です。
リスクを検討するときには単に「役員の報酬に関するリスク」と抽象的に考えるのではなく、役員報酬に関する不祥事が起きたら具体的に団体にどのような影響があるかという点までセットで考えることが重要です。
本記事では、団体として、役員の報酬のリスクをどのように見積もり、どのように防止策を講じるべきか、どのような費用がかかるのかについて検討します。本記事は、特にNPO法人について考えられるリスクの内容、その発生可能性及び影響度、講ずるべき対策の内容とその費用について論じていきます。一般社団法人等については、別の記事を投稿予定ですので、もう少しお待ちください。
また、以下、「報酬」とのみ記載していますが、「報酬」以外であっても、賞与、退職金など、業務遂行の対価として役員が受ける財産上の利益全てが規制の対象であることに注意してください。
1 報酬に関する規制
(1)NPO法上の規制
NPO法人において役員報酬を支払う場合にはNPO法上定められている次の規制をクリアする必要があります。
①報酬を受けられる役員が役員総数の3分の1以下であること
②認定NPO法人の場合には、毎事業年度に一回、『前事業年度の役員報酬又は職員給与に関する規程』を作成し事務所で保管しておくと同時に、所轄庁へ提出すること
なお、ここでいう報酬には、「役員報酬」という名目で支払う金銭だけではなく、たとえば役員に対する過大な家賃の支払いなど、実質的な利益の分配とみなされるものも含まれることに注意が必要です。
また、ここでの「報酬」とは、役員としての報酬のことを指します。理事が同時に職員としての身分も有する場合に、当該職員として職務執行の対価としての給与を受け取る場合には、役員報酬にあたらないものと考えられます[1]。
(2) その他の規制
収益事業を行うNPO法人においては、法人税法上の役員報酬に関する規定(使用人と兼務することができる役員の範囲に限定がある等)にも注意が必要ですし、団体の信頼性確保のためにNPO法人会計基準に則った事業報告を作成することも大切です。
2 発生可能性及び影響度
(1)発生可能性
認定NPO法人として『前事業年度の役員報酬又は職員給与に関する規程』を作成し毎年所轄庁への提出を行っている場合には、少なくとも ② に関する法令違反の発生可能性は低いといえるでしょう。また、役員報酬規程について、行政庁によって公開されるため、認定NPO法人の場合には厳しい規制を遵守しているという信頼が働きます。
これに対して、通常のNPO法人の場合には、役員報酬に関して認定NPO法人のような手続上の規制はありませんので、公による監視・監督の目が届きにくく、相対的に、法令違反のリスクは高くなると思われます。
また、そもそも報酬に該当するか否かの判断は、専門家でなければ難しい側面もあり、法人としては報酬に該当しないと考えて給付している対価が、報酬に該当する又は利益の供与(詳細は別記事を参照)とみなされることもあり得ます。
このように、役員報酬に関するルールは多岐にわたり専門的な判断や対応が必要な側面もあります。そのため、顧問税理士等の専門家が団体に関与している場合には法令違反が生じる可能性は「低」、逆に関与していない場合は「高」と考えられます。
(2)影響度
報酬に関する法令違反があった場合には次のような影響が考えられます
・行政処分を受けるリスク
行政庁から法令違反を理由とする改善命令が出され、これが公表されるというリスクがあります。また最悪の場合[2]にはNPOの認証が取り消され、これが公表されるリスクもあります。
・刑事上の制裁を課されるリスク
行政庁の出した改善命令に違反した場合には、法人や、法人の代表者などに50万円以下の罰金という刑事罰が科せられてしまうリスクがあります。
・寄付金や助成金を獲得することができなくなるリスク
社会的な信用が低下し、寄付金や助成金を獲得することが難しくなり、法人の運営に支障がでるというリスクが考えられます。
・人材流失のリスク
法人内でも、従業員が法人に対する不信感を抱き、当該法人を退職し、スタッフ不足に陥るというリスクが考えられます。
・税法上の優遇が受けられなくなるリスク
認定NPO法人については、報酬に関する法令違反を理由に認定が取り消されることも考えられます。この場合、取消された日から5年間は、再度、認定NPO法人になることはできません。また、認定が取り消されない場合でも、認定が更新されないというケースもあります。そのため、認定NPO法人として享受していた税制上の優遇措置を受けることができなくなるというリスクが考えられます。
3 発生可能性と影響度の評価
法令違反が生じた場合に生じる可能性のある各リスクはいずれも団体の根幹を揺るがす大きなものです。そこで、リスクの発生可能性及び影響度を3段階で評価する場合、税理士等の専門家が関与していない場合には「高」、逆に関与がある場合には「中」ないしは「低」と整理できることが多いように思われます。
4 講ずるべき対策及び費用
税理士等が団体に関与していない場合には、団体にコミットしてくれる税理士を探すことが考えられます。この際には(顧問)税理士等に支払う報酬が必要となることがあります。また、役員及び経理担当の従業員に対すして報酬に関する研修を実施することも有益です。この際には研修の費用が必要になると思われます。
なお、一般社団(財団)法人や公益社団(財団)法人の場合については、別の記事をお待ちいただければと思います。
(池山睦衛)
[1] 内閣府NPOホームページhttps://www.npo-homepage.go.jp/qa/ninshouseido/ninshou-yakuin#Q2-3-14参照
[2] この改善命令に違反した場合であって、他の方法によって行政庁による監督の目的が達成できない場合や、改善命令によっては報酬に関する不正が生じているという事態の改善を期待できないことが明らかであって、かつ、他の方法により行政庁による監督の目的が達成できない場合です。
