この記事では、よく規程の整備が求められる事項について、具体的な対応策をリスクマネジメントの観点から分析し、具体的な対応策を検討します。今回のテーマは「利益相反」です。
リスクを検討するときには単に「利益相反」と抽象的に考えるのではなく、利益相反が起きたら具体的に団体にどのような影響があるかという点までセットで考えることが重要です。本記事では、団体として、利益相反のリスクをどのように見積もり、どのように防止策を講じるべきか、検討していきます。
Ⅰ 利益相反とは
利益相反とは、本来団体を代表し団体の業務を執行すべき立場にある理事が、団体の利益と「相反」して理事自身等の利益を図ることを指します。利益相反には、法律上定められたものと、助成事業において求められるものがあります。
1,法律上の利益相反
具体的には、理事自身が主体となって、若しくは理事が第三者を代理して、団体と取引をすること(一般法人法第84条第1項第2号)や、理事が第三者に対して負っている債務について団体が保証人になる等、第三者との間で団体と理事との利益が相反する取引をすること、(同条第3号)が、利益相反取引に該当します。
一般社団法人において、理事が利益相反取引を行う際には、団体として本当にその取引が団体のためになるのかを確認するために、理事会又は社員総会での承認を得ることが必要になります(一般法人法第84条第1項)。特定非営利活動法人においてはより厳しく、理事は利益相反取引についての代表権を有さず、都道府県知事等が選任した特別代理人が理事に代わってその取引を代表します(特定非営利活動促進法第17条の4)。
万一理事が承認等を得ずに利益相反取引を行った場合、団体はその取引の無効を主張することができます(民法第113条)。また、一般社団法人において承認を得た上で利益相反取引を行った場合であっても、事後的にその取引が団体に損害をもたらした場合、利益相反取引を行った理事やその取引に賛成した理事等はその損害を賠償する義務を負います(一般法人法第111条第3項)。
このように、団体に対して強い影響力を持った理事が、その影響力を自分自身の利益のために用いることが利益相反取引であり、法律では一定の場合にこれを無効としたり損害賠償義務を用意したりすることによってこの抑止を試みています。
2,助成事業において求められる利益相反
なお、特に休眠預金事業は、国民の休眠預金を原資とした制度であることから、休眠預金の助成を受ける際には、法律上の利益相反取引規制よりも広い規制を受ける場合があります。特に、資金分配団体と実行団体、また、活動支援団体と支援対象団体の役員の兼任は禁止されており、理事会等の承認等を経ても認められない点は注意が必要です。それ以外にも、団体が支援を行う先の他団体から何らかの利益の供与を受ける場合等も利益相反状況が生じるものとして扱われます。
そして、利益相反行為を行う場合、必ず団体に対してその旨を申告し、団体が利益相反状況の防止のために必要な措置を命じることができる旨を定めることが求められる場合もあります。
Ⅱ 利益相反のリスク
次に、利益相反のリスク分析として、発生可能性及び発生時の影響度を考えましょう。
なお、そもそも、適切な承認を得た上で形式的に利益相反に該当する取引がなされること自体は、これによって団体の利益に繋がる場面もあり得ることから、特段問題ありません。そのため、以下では実質的に団体の利益を害するような利益相反取引がなされるリスクについて検討します。具体的には、理事や理事を兼任している団体に対して過大な業務委託報酬が支払われる場合等が想定されます。
1,発生可能性
利益相反取引の発生可能性は、以下のような、理事が独断又は秘密裏に取引を行うことができる状況や、他の団体のためにも活動している場合に高まります。
- 法人化しているものの実質理事が1名で稼働しており理事の行動を管理・注意できるメンバーがいない場合
- 理事会・社員総会、稟議体制等が形骸化している場合
- 一定の地域につながりが強く、理事がその地域の他の団体にも関与している場合
2,影響度
利益相反取引がなされた場合の影響としては、以下のような影響が考えられます。
- 休眠預金事業において事業停止措置等を受けてしまうリスク:実際に役員の兼任により事業停止措置となった例もあり、休眠預金事業においては特に意識が必要になります。
- 不適切な利益相反取引によって団体の財産等が失われるリスク:団体に生じた損害については、理事への請求によって回収できる場合もありますが、損害賠償請求をするためにも時間と資金を要しますし、そもそも理事が賠償する財産を持たない場合には回収も不可能となります。金額次第では団体の存続にかかわる場合もあり得るものと言えるでしょう。
- 支援を受けられなくなるリスク:利益相反取引が行われた結果大きな損害が生じた団体と報道・流布されてしまうと、管理体制のずさんな組織であるとの風評に繋がり、助成金や寄付、その他の支援を得られない等のレピュテーションリスクが顕在化することにも繋がります。
- 役職員の業務負担が増加するリスク:利益相反取引を行った理事に対しては解任その他の処分を行うべきであり、その理事が担っていた業務執行を他の役職員等が埋め合わせなければならないという点も、リスクとして挙げられます。
3,発生可能性と影響度の評価
以上を踏まえますと、リスクの発生可能性及び影響度を3段階で評価する場合、利益相反の発生可能性については基本的に低、体制次第では中程度と考えられ、利益相反取引が発生した場合の影響度については中、又は、特に助成金との関係で広く利益相反への対応が求められている場合、理事が役員を兼任する他の団体との取引がある場合には高と整理する場合が多いように思われます。
なお、利益相反取引は理事による私欲の優先によって生じるものですので、理事間でリスクの分析を行う場合には、個々の人格的な信頼を一旦気にせず、仮に利益相反取引を行いたいと思った理事が現れたとしても実際に行うことができる体制となっているか、という観点からリスクを検討することが重要です。
Ⅲ 利益相反のリスクマネジメント
特に、役員を兼任している団体との取引が多い場合や、利益相反に関して厳しい助成金・補助金を受けている場合には、利益相反への対応の優先順位は高まります。その場合、以下のような組織づくりをすることで、上記の要素を低減させ、不適切な利益相反取引が生じにくい組織を作ることができます。
- 規程類の整備及び監査等によるチェック
- 理事間等での連携
- 稟議体制や社員総会・理事会の実効性向上
1,規程類の整備及び監査等によるチェック
利益相反の取引に対して適切に対応するためには、特に特定の取引について利益相反ではないか、と気が付くことができるか否かが非常に重要です。
そのため対策のひとつとして、理事に適用される倫理規程等に、明示的に利益相反取引の禁止を盛り込み、監事監査等の際に必ずチェックしてもらうことが挙げられます。
理事には、団体のために忠実に職務を行う義務が課されますが(一般法人法第83条)、その一環として、私利私欲よりも団体の利益を優先して業務を行うべきという当然の考えを、改めて明記することが考えられます。
また、実際の意図としては団体のためを思っていたものの、利益相反取引のためには社員総会等の承認が必要である旨を知らずに取引を行ってしまう場面もあり得ます。このような事態を防ぐためにも、規程への明記及びその周知が重要になります。
なお、特に助成金の獲得等を意識する場合、上記Iにおいても触れたとおり、法律上の要請よりも広く規程に利益相反取引の規制を盛り込むことが求められることがあります。外形的にも利益相反状況を生まないよう、理事に対して広く申告を求める旨の規定を盛り込むことが有効です。申告の実効性を高めるために、実務的には、カレンダーのスケジュールに入れたり、チャットツール上のリマインド機能を使ったりすることによって、申告のリマインドを自動化することや、申告書の中に自団体との役員の兼任の有無を回答する欄を設ける等の対応をすることで、チェック漏れを防ぐこと等も有益です。
2,理事間等での連携
より実質的な対策として、理事間や理事とメンバーとの間での連携を強め、かつお互いに自身の考えを率直に伝えられる風土を作ることによって、理事が単独で利益相反取引を行う場面を限定することが重要です。
上述のとおり、利益相反取引による損害は理事による私欲の優先によって生じるものです。もっとも、誰しも私欲を優先したくなる瞬間は生じ得ますので、個人の善性に必要以上の期待をするのではなく、相互の連携によって秘密裏に私欲を実現できる場面を減らし、かつ専権で利益相反取引を行うことに対して周囲が歯止めをかけられる状況を作ることが、個人を救うことにも繋がると考えられます。
3,稟議体制や社員総会・理事会の実効性向上
それから、利益相反取引がなされることを捕捉した上で、その取引が本当に団体のためになるかを検討できる体制を構築することも重要です。
捕捉のためには、上記2.のとおり理事間の連携を強めることも重要ですが、利益相反取引を含む取引を行う場合に誰がどのような承認を行うか(当然、利益相反取引については最終的に社員総会又は理事会の承認を要します。)を定めることも必要になります。また、社員総会・理事会での議論が活発に行われることによって、利益相反取引の団体にとっての有用性を正しく判断することができるようになります。
意思決定プロセスや社員総会・理事会の運営については、それぞれ利益相反取引の防止に限らず団体の運営自体にとって非常に重要であることから、それぞれ別稿にて詳しく取り扱う予定です。
以上のように、発生可能性の高い状態を具体的に特定することにより、できる限り団体の不利益に繋がる利益相反取引の発生を抑制することが可能になると考えられます。
(岡田一輝)