今回はBLP-Networkのメンバーで楠・岩崎法律事務所の岩崎通也弁護士にお話を伺いました。岩崎弁護士はソーシャルベンチャーに対する投資・協働を行っているソーシャルベンチャーパートナーズ東京(SVP東京)のメンバーであるだけでなく、BLP-Networkでも1周年記念イベントの実行委員長として精力的にプロボノをされています。そのキャリアから、プロボノのきっかけ、やりがいなどを話してくださりました。

―弁護士を目指すきっかけ、キャリアを簡単に教えて下さい。

大学の学部は文学部西洋史学科で、もともと歴史学の学者志望だったのですが、学部の成績が悪くて大学院に行けそうになかったのと、司法試験の勉強をしていた友人の影響で、弁護士を目指すようになりました。

その後、弁護士になって、最初にお世話になった事務所は、使用者側の労働法や倒産案件を中心とするいわゆるブティック事務所だったのですが、非常に密度の濃い充実した仕事をする機会に恵まれ、6年ほど在籍させていただいた後、縁あって、任期付公務員として金融庁で働くことになりました。

金融庁でも相当いろいろな案件をやらせていただいたので、任期満了後は金融庁での経験を生かしてファイナンスの分野で仕事をしようと思い、特にファイナンスで有名な渉外事務所で働くことになりました。そこでは、当時盛んだった不動産や債権の証券化案件などをやっていたのですが、その分野では知識・経験不足であまり役に立たないなと思ったので、また労働法などのコーポレート分野や倒産法関連の業務にシフトしていきました。

その後、昨年12月に独立をして、現在に至る、という感じです。

―その中で、プロボノに関わった経緯を教えて下さい。

国選弁護や弁護士会の委員会活動など、伝統的なプロボノと呼ばれる活動自体は弁護士になった時から行っていました。とはいえ、当時は最低限弁護士としてやるべきことをやっていたという感覚で、積極的に取り組んでいたという訳ではなく、実際、忙しくなるに連れて、そういった活動からも徐々に遠ざかるようになってしまいました。以前はプロボノのイメージも現在と違い、本格的なプロボノは人権系の方がそれを本業と不可分のものとしてやっているというイメージがあったということも影響しているかもしれません。

現在は、伝統的なプロボノ活動とは少し異なり、ソーシャルベンチャーに対するお手伝いを中心とした活動をしています。これまでとは違った形でプロボノに関わる事になったのは、SVP東京にパートナーとして参加するようになってからです。それまでも付き合いの深い大毅先生(大毅法律事務所)がNPOバンクへの支援等に積極的に取り組んでいる姿を見ていて興味をもっていたので、その影響もありました。

最近は、弁護士になった頃と異なり、プロボノでは自分が持っているスキルをいかに活かすか、という事を強く意識するようになりました。要するに自分が持っているスキルを活かせるプロボノ活動をしたい、ということなのですが、その背景としては、いわゆる社会的起業が増えて、ビジネス法務の知識・経験を活かすことのできる形でのプロボノ活動ができるようになったという中で、ビジネス法務をバックグラウンドとした自分なりの知識や経験を活かした活動をすることが自分にとっては一番価値を提供できそうだと思うようになったということです。

―つまり、弁護士としての仕事があってのプロボノということですね。

そうですね。そもそも、弁護士の仕事は、クライアントのために自分が持っている法的知識・経験を最大限生かす仕事なのではと思いますし、その意味では、仕事とプロボノに対する姿勢には通じるものがあるのではと思います。普通の会社でも非営利団体でも、法務というのはマイナーな存在で、ビジネスそのものが一番重要なわけですが、とはいっても法務が原因で成長が阻害されたり、あるいはその事業がダメになったりすることもあるわけです。ビジネスの本筋ではないところの法務の問題でそういったことになってしまうのは本当にばかばかしいし、もったいないので、どちらにしても、法律面の問題が原因で、企業や組織の足かせになることは防ぎたいとの思いがあります。

話は変わりますが、自分が持っているスキルを活かす一方で、自分に出来ないことは何か、という事を認識することもプロボノでは重要だろうと思います。あくまで、自分に出来ることを活かして、公の役に立ちたいというのがプロボノですから、自分が出来ないことであれば無理に自分でやろうとはせず、できる人に聞いたり、お願いすることも時には必要ではと思います。この点も通常の仕事と同じですね。

―逆に、仕事とプロボノとの違いを感じることはありますか。

現在私が携わっているプロボノ活動の場合、殆どは、書面を作成したり、法律面でのチェックをするといったこと主な業務であり、どちらかというと地味で定型的な作業が中心で、紛争対応や交渉といったこともやっていません。現時点では、緊迫度や規模、あるいは業務内容のバラエティといった面からみると本業の仕事の方が圧倒的に面白いと言っても過言ではありません(笑)。

一方で、本業の仕事はクライアントのためにやるもので、クライアントが提供しているサービスがどのように役に立っているかといったことは、それに法的意味がある場合でない限り、殆ど考えていないのですが、プロボノの場合は、アドバイスを提供している団体のその先の受益者にとってどのように役に立つのか、それによってどのような社会的課題が解決されるのかといったことを考えているという違いはあります。その点で、通常の仕事とは異なる文脈でのやりがいがあると思います。

とはいうものの、あくまで中心は本業の仕事ですので、うまく両立できればと思っています。仕事は仕事で楽しくやりたいですし、プロボノも仕事に支障をきたさない程度にやりながら、それぞれの良さを共に楽しめればと思います。

―最後に、読者の方にメッセージがありましたらお願いします。

最近、プロボノがブームになりつつありますが、プロボノに対する位置づけは人それぞれだと思います。BLPNのメンバーの中でも人によって差があります。私自身は、空前のプロボノブームに便乗して始めたにわかプロボノなのであまり偉そうなことはいえないのですが、逆に言えば、自分のように最近になって始めた人や、ビジネス法務を中心にやってきた人であっても、それまでのスキルを活かして力を発揮できるのが最近のプロボノの特徴だと思いますし、それぞれが自分のできる範囲で、やりたいことをやればそれで良いのではないかと思います。現在よりもより広い層の人が、プロボノに興味を持ち、関わって下さればと思います。

―お忙しい中、ありがとうございました!