社会にインパクトを与える人を支えて、その影響力を最大化したい

「人やお金が足りないNPOや小規模の組織が、プロボノを活用しない手はないです」

 

そう語るのは、普段は中小企業を中心として「企業法務」に従事されている、弁護士の瀧口徹氏です。BLP-Networkには立ち上げ時から関わっている瀧口弁護士は、現在もプロボノ(無償又は低額での支援)又は本業(有償での支援)を通じて10団体以上のNPOやソーシャル・ベンチャーを、法務面でサポートされています。爽やかな笑顔と話しやすい柔らかな雰囲気を持ちつつ、熱い想いを持ってストイックに日々業務に取り組む瀧口弁護士。今回は、そんな瀧口弁護士に、弁護士・プロボノとしての活動を始めたきっかけや、活動にかける想い、さらに組織がプロボノを活用するメリットについてもお話いただきました。

NPOが与える社会的インパクトの大きさを感じ、その活動をサポートしたいと思った

― 瀧口さんは、いつ頃から弁護士になろうと思っていたのですか?

大学3年生くらいまでは、弁護士になろうとは思っておらず、インターネットやコンピューター関係の技術分野に興味を持っていました。最初に法律に興味を持ったのは、音楽違法ダウンロード問題がきっかけでした。自分が大学生だった時に、音楽ファイルの違法ダウンロードが問題となっていたので、その問題に興味を持って研究対象にしていたんです。その研究を進めるうちに、「そもそも音楽著作権や知的財産権ってなんだ」と疑問を持つようになり、著作権法などの法律関係を勉強し始めました。ちなみに、法律に興味を持つ前は、「音楽業界に就職できたら楽しそうだな」と思っていたので、普通に就活をしてレコード会社などの選考を受けていました(笑)。

― NPOという組織や活動に関わるようになったのはいつからでしたか?

1番最初にNPOに関わったのは大学4年生の時です。

訪問型の病児保育事業をするNPO法人「フローレンス」が、ちょうど当時立ち上げの時期で、そのNPOの代表理事が大学の先輩だったことと、「NPOを立ち上げるのって面白そうだな」と単純に思ったこともあって、学生インターンのような形で立ち上げに関わりました。まだ法律を本格的に勉強する前だったので、事務作業や広報など、もうなんでもやりましたね。フローレンスでの活動は、大学を卒業して法科大学院に入ってからも続けていました。

― プロボノ活動をやっていこうと決意されたのは、この時フローレンスに関わっていた経験が大きいそうですね。

大きいですね。

当時、法科大学院で勉強していたのですが、法律の勉強って当時の自分にとってはあまり面白くなかったんですよね(笑)。でも、NPOと関わる中で、例えば契約書を見たときに「ここは直した方がいい」と指摘ができたりして、自分が勉強している内容が役立つ場面に立ち会うことが多くなりました。そんな経験を通して、「弁護士になったら法的な知識を活かして組織をサポートしていきたい」と、自然に思うようになりましたね。

あと、フローレンスと関わったことで「NPOは社会にインパクトを残せる存在なんだ」ということを感じたのも大きかったです。立ち上げから関わったフローレンスが大きくなって、メディアでも取り上げられる団体に成長していく様子を見ながら、NPOの可能性を感じました。

抽象的ですが、「人の役に立ちたい」という想いが自分の根本にあるんです。著作権などに興味を持ったのも、音楽家や作曲家など、頑張って良いものをつくっている人たちが損しないように、法的な部分でサポートをしたいと思ったからでした。その後NPOと関わるようになり、NPOが社会にインパクトを与える様子を実際に見て、抽象的だった自分の理想が「NPOの役に立ちたい」という具体的な想いに変わっていきました。

組織のトップと志を共有しながら仕事をすることにやりがいを感じる

― 晴れて弁護士になられてから、実際にどのようなお仕事をされてきたのかお伺いしたいです。ちなみに、弁護士になった当初に「こんな弁護士になりたい」という理想像はありましたか?

やはり「NPOを支援できるようになりたい」という想いはありました。しかし、当初は弁護士といってもまだ社会を知らない学生上がりの新人だったので、まずは「民間の営利企業がどんな形で仕事をしていて、そこに弁護士がどのように関わっていくのかを知りたい」と思いました。だから最初は、海外取引などを主とした国際企業法務に関わる事務所に就職しました。仕事の半分以上は海外の企業が関係する案件でした。

実際の仕事では、組織が作り上げられる根底に関わるような案件もあって、非常に面白かったです。社会や企業がどう動いているのか、企業の意思決定がどう成されるのか、企業がどのように成長するのか、新しい事業をいかに展開していくのか、そのプロセスを実際に見て関わることができたのは重要な経験でした。

その事務所には2年間在籍して、その後に今の事務所へ移りました。もう少し規模の小さな会社の案件を扱って、経営者と直接関わる機会の多い仕事をしたいと思ったことが主な理由です。今の事務所に来て、中小企業のお客さんが一気に多くなりました。

― 大企業と中小企業では、依頼先の会社内で関わる相手や弁護士側のサポートの仕方など、かなり違いがありそうですね。

その通りです。大企業だと必ず社内に法務担当者の方がいるのですが、中小企業の場合は経営者が直接相談にくることが圧倒的に多いです。その方々のサポートをする中で、「成長過程にある団体のサポートをすることが自分には合っている」と感じるようになりました。組織をつくった方と志を共有できることが嬉しかったですね。

― 中小企業支援におけるやりがいは、NPOの支援にも通じる点がありそうですね。プロボノ活動を本格的に開始されたのはいつ頃ですか?

プロボノ活動を始めたのは5年前、弁護士になって2年目の時です。弁護士になって少し余裕ができたので、児童福祉施設の子どもへの学習支援を行うNPO法人「3keys(スリーキーズ)」でのプロボノを始めました。「子どもの成長にかかわる=子どもや社会の未来に関わる」と思っていたので、やりがいを感じられる分野だと感じています。

―本業の事務所でのお仕事もかなりお忙しいのではないかと思うのですが、どのタイミングでプロボノ活動を行っているのですか?

今の事務所は、「業務時間中に自分個人の案件に取り組んでも良い」とされています。だから、本業の空いたタイミングなどに、積極的に時間を作ってプロボノ活動に取り組んでいますね。こういう業務スタイルは弁護士事務所の中では珍しいものでもないのですけど、本業が忙しすぎて結局自分個人の仕事やプロボノ活動はできないという人も多いので、自分は恵まれていると思います。

― それは瀧口さんが優秀で仕事が早いから可能なのではなくてですか?

いえいえ!そんなわけではないですよ!(笑)

資金面におけるプロボノのメリットに加え、「多様な専門家がいること」がBLP-Networkの強み

― プロボノ活動では具体的にどのような業務をされているのか教えて下さい。

プロボノでの業務は大きく分けて3つあると思います。

1つ目は、契約書のチェックや、ボランティア規約など規約関連の作成。

2つ目は、法律調査。NPOが事業を行う際に、法律に引っかからないか、必要な届け出や許可はなにか、どのように定款変更するかを、調査して手続きを行います。

3つ目は、法的な問題が実際に発生した場合のトラブル対応です。

NPO特有の専門的な内容を含む業務もありますが、一般的な企業法務と共通する内容も多いと感じています。

― その中で一番依頼が多い業務はどれになるのですか?

一般的に、弁護士に最初に来る依頼で一番多いのは3つ目のトラブル対応です。1つ目と2つ目は、わりと軽視されがちで、しっかりできていないNPOも多いのが現状です。特に人数が少なくて忙しいと、そういうバックオフィス的な仕事を内部でやっている余裕がないのだと思います。「実際に困ったことが起きてから相談に来る」というケースは、NPOだけではなく営利企業でも一番多いですね。

― 確かに1つ目や2つ目のリスクヘッジは後回しにされがちになる気がします。その結果、法的にグレーあるいはアウトな状態のまま事業が進行してしまうケースもありそうですね。

そうなんです。例えば、契約書の記載が原因でトラブルが発生するケースは稀なので意識が向きにくいのですが、軽く見ているといつか問題が起こります。問題が起きてから「あの時ちゃんとしておけば良かった…」と後悔することがないようにするために、法律の専門家である弁護士にチェックしてもらった方が良いと思います。

― 弁護士に依頼するメリットは大いに理解しました。では、法律事務所への依頼ではなく、プロボノに依頼するメリットにはどういう点がありますか?

そうですね。NPOは、組織の性質上「資金的な余裕がない状態」が営利企業より長く続きがちです。ただ、人やお金が足りない時期が長い中でも、契約の締結や規約の作成、新しい事業を行う時の手続きにおいて「法的リスク」を抱えている状態にあることは変わりありません。そんな時に、資金的に余裕のある組織であれば、弁護士費用を払って弁護士に依頼することもできると思うのですが、そうではないNPOにとっては難しいはずです。それならば、「自分のスキルをNPOのために提供したい」という想いを持っているプロボノを活用しない手はないんじゃないかと思います。

― それでは最後に、瀧口さんの今後の活動全般にかける想いを聞かせて下さい。

「社会にインパクトを与える活動をしている人が、そのインパクトを最大化できるように伴走してサポートしたい」と、常に思っています。この対象は、NPOに限りません。結果として、NPOにそういう方が多いのですが(笑)。

社会にインパクトを与える主体となってくれる人をサポートして、一緒に走っていきたい。
それは、プロボノも本業も関わらず、自分がやっていきたいことです。